谷折ジュゴン

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創作 「ルール」

彼女が原稿用紙の文章を消しゴムでがしがしと消している。彼女が気に食わないことを書いてしまった時に良く見る光景だが、一体何を書いていたのだろうか。

「筆が止まってるね?」

「交通ルールについての作文だったんだけど、上手く書けないの」

彼女は消しゴムのかすを机の隅に寄せながら言う。原稿用紙は題名と彼女の名前以外はすっかり消されてしまっていた。

「珍しいな」

「でしょ。あーあ、今回の資料はいらなかったな」

彼女の自嘲を含んだ言葉に俺はムッとする。彼女は資料に基づいて公平な文を書くのが得意であるはずだ。実際、それで賞をいくつもとってきた実力がある。

「は? 賞をとりたくないのか」

俺はわずかに怒りをにじませ尋ねた。だが、彼女は疲れたように天井を見る。

「まぁ、受賞できるのは嬉しいよ。だけど、期待されるのは苦手なの。それにね」

彼女は言葉を切り慎重に口を開く。

「あたし、たまに自分で書いた文章が怖いと思うことがあるの。テーマによっては私情を挟んで語気が強くなることがあるから。それで硬い文体でこうあるべきだって書いちゃうの」

彼女は顔を両手で覆い深く息を吐く。

「あたし、そんなふうに書きたくない。もっとやわらかくて、かろやかな意見を書きたいの……」

俺は静かに衝撃を受けていた。彼女は書くことに関しては遠慮の無い人だと思っていた。テーマに合わせて思ったことをストレートに表現しているのだと俺は思っていただけに、彼女がそんな悩みを持っていたとは知らなかった。

「ねぇ、どうしたらキミみたいな柔軟な書き方ができるの。教えてよ」

彼女はそう言い、俺の目を見つめるのだった。

(終)

4/25/2024, 3:06:01 AM