ある日、一人の少女を拾った。
最初は拾うつもりなんてなかった。何せ、自分のしている仕事は、表で言えるような真っ当な仕事じゃあない。そんな自分が少女を真っ当に育てられるとは到底思えなかったし、少女ではなかったとしても危険すぎる。そう思って、通り過ぎようとした。けれどできなかった。
その少女の目が、あまりにも何も映していなかったから。あまりにも昔の自分に似ていたから。そう思ったら、気がついたらうちに連れて帰っていた。
それからの日々は、それなりに穏やかだった。拾った少女が、自分の仕事に興味を持って手伝い始めてしまったのだけはかなりの誤算だったが。しかし、少女は覚えがよくしっかり者だったため、仕事をよくこなした。
しかし、穏やかな日々も長くは続かなかった。
その日は、少女に街まで買い物に行ってもらっていた。その間のことだった。襲いに来たのは自分が過去に潰した組織の残党だった。自分もそんじょそこらの連中に負けるほどやわではない。しかし、一人で相手をするには多すぎた。いや、少し油断をしすぎてしまったのだろう。不意をつかれて致命傷を負った。最後の力を振り絞って、最後の残党を倒した。しかし、もう少女が帰ってくるのを待てるほどの力は残っていない。きっと彼女は悲しむだろう。苦しむだろう。大切な人を喪う覚悟なんてできていないだろうから。きっと心優しい彼女は復讐を望むだろう。あぁ、彼女がそばにいないのが少し淋しいが、たくさんの人を殺してきた自分にはこんな最期が似合いなのだろう。
もし、もしも神様がいるのなら。今だけは、最期の願いだけは聞き届けてください。
自分のことは救わなくていいから。せめて、心優しい彼女が復讐に囚われることなく幸せであれますように。願わくば、光溢れる優しく美しい世界を生きていけますように。
テーマ:幸せに
作者のつぶやき:
最後まで読んでいただいた方、途中まででも読んでいただいた方、本当にありがとうございます。
久しぶりに少し長めの文章となりました。
「2024年3月11日のテーマ:平穏な日常」の作品の続きというか、少女を拾った側の人の話が思い浮かんだので、文章に起こしてみました。気になった方はそちらも読んでいただけたら幸いです。
3/31/2024, 1:34:04 PM