阿寒湖まりも

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嗚呼、ただ、落ちていく。

我が身を守る純白ノ鎧はとうに砕け、
己の非力さを嘆きながら沈みゆくのみ。

上に見えるは、にたりと哂う大きな口。
下に見えるは、雪のように照り映える果てしない大地。

乱暴に産み落とされた赤児のように、
我は地面に叩きつけられる。

身動きは取れない。
抗うことは許されない。

―――もう、助からない。


『ぷちゅ』


嗚呼、ただ、落ちていく。

一対の大きな柱が柔い身体を引き裂き、
我が肉体を形作る“ナニカ”が零れ落ちる。

それだけには飽き足らず、
大地は神の手によって掻き回され、
我が血肉の色に染め上げられる。

最早、我はまな板の上の鯉。
どう調理されるかは、天の定めに従う他無い。


嗚呼、ただ、落ちていく。

硫化水素の臭いが立ち込める大地に、
赤銅色の雨粒が降り注ぐ。

我は悟った。
これが我に課せられた定めなのだと。
これで、我が短き生涯は終わるのだと。

そして、天地は180度回転し、
我は光すら届かぬ暗黒の洞穴へ堕ちる。


嗚呼、ただ―――。


「これが卵かけご飯の気持ちなんじゃないかな。」
「お前、そんなこと考えながら食事してんの?」

2024/11/24【落ちていく】

11/24/2024, 12:11:09 AM