ぼくの恋
【お題】本気の恋
きっかけは、いつだったか。
いつもはとなりの家から聞こえるこどもの泣き声で目を覚ますんです。ぎゃあぎゃあ喚いて、それを親がうるさいと怒鳴って、その声に(うるさいなぁ)と思いながら目を覚ます。それがぼくのルーティンでした。
ある日、ぼくは死体を見つけました。ぼくと同い年くらいの、小さな女の子の死体です。
その日はいつも聞こえるこどもの泣き声も聞こえず、寝坊をしてしまいました。起きたころにはお昼で、お母さんは仕事に行ってしまっていたので、書き置きされたメモのとなりにある冷めてしまった朝ごはんを食べながらぼんやりとしていました。そのうちに暇になり、気分転換に外に出ました。気が向いたのかいつもはいかない裏山へ。そこで死体を見つけたのです。
きれいな、それはきれいな女の子でした。日焼けのない真っ白な肌に美しく閉じられた目。白い肌に映える黒ずんだ血。それらはとってもきれいで、思わず見惚れてしまいました。目が離せず、心臓が痛いくらいドキドキして、頬が赤らんで、ああ、これが恋なんだと本気で思いました。
そこからはあまり記憶がありませんが、これを見ていいのはぼくだけだととにかく必死に穴をほって死体を隠した覚えがあります。毎日それを掘り返しては、その子を眺め、次第に腐っていく肌とそれでも変わらない美しさに惚れ惚れしていました。
あれから何年、いえ、何十年がたったのでしょう。ぼくは近所の子供に「おじいちゃん」だの言わることがあるけれど、いまいちピンときません。だっていまでもぼくは変わらずあの子に恋をして、変わらず美しいあの子のことをいつまでも変わらない心で愛し続けているんだから。
隣の家から聞こえる泣き声を目覚ましに起きる日々は、あの日から彼女を眺めるために起きる日々になっていました。
9/13/2022, 8:06:16 AM