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「美しい」

その男は美しかった。学も地位も権力もない。ただ美しかった。美しさだけで生きられる程、美しかった。

男の美しさはしばしば争いを生んだ。男を取り合った争いは、大抵男が面倒になって離れていくことで収束する。争いを嫌った男は一処に留まることを避け、どこにも根を張らず根無草として流離うことで安寧を求めた。

路銀が無くなれば、美しさを使って稼ぎ、親切そうな人に一泊一飯を世話になり、極力顔を隠して生きてきた。故郷は捨て、何にも執着せず、ただ孤独に生きた。

人々が羨み、己の手に入れようと渇望するほどの美しさは、男にとってはただ煩わしい枷だった。美しさは男に多くを与えたが、それはどれも一時のもので、それよりも多くを諦めさせた。

そうして、街を流れるように生きた男は、とうとう誰も通る人もいない山奥で一人ひっそりと息を失った。後にそこにはこの世のものとは思えないほど美しい花が咲くようになった。今でもその場所には、季節を問わず美しい花が咲き誇っているらしい。

1/16/2026, 1:00:17 PM