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#4『涙の理由』

 7時間目の授業が終わって16:00過ぎ。皆、部活やら帰宅やらで教室から出ていく。そんな流れに逆らって長身が1人、私の机の前にやってくる。

「うい、これで合ってる?」
「ん、サンキュ。やったー♪」

 部活のマネと付き合いたいなんて言うアイツの恋愛相談に乗って約1ヶ月半。うまく行ったら私に新作コスメを献上するという約束を守る結果となった。ただ自信がなかったから応援してほしかっただけなんだろうけどね。

 あーあ、うまく行きすぎちゃったな。何てことしちゃったんだろ。私もアイツも、バカ。馬鹿馬鹿。

「……は!?おま、何泣いてんだよ」

 うるさい。黙ってろ。こちとら失恋を痛感してんだぞ、オラ。

「いや、本トに良かったなーって。ククッ、お前に彼女って。いい子で良かったねー、本ト。アハハッ」

 こうやって笑って誤魔化せばアンタにはわかるまい。……でも。

「いい?あの子が泣いたらちゃんとハンカチ貸してあげなさいよ。っていうかゼッタイ泣かせんな。それに他の女の子に内緒でプレゼントもあげちゃダメ。わかった?」
「いや、でもこれ俺悪くな、」
「わかった?」
「肝に銘じます」
「よろしい。じゃあ、もう私行くわ。お幸せにー」

 ありがとな、なんて言葉にも振り返らず片手を挙げて済ます。……クソ、こんなコスメで可愛くなってどうすんのよ。使い切るまで嫌になるし。スタバの新作にすれば良かった。

「いやー、やっぱいい女だねー。アイツの前で泣いちゃうところもかわいーよ」

 ギターケースを背負ってフラフラと横から声を掛けてくる。いつから見てたわけ。

「私が可愛いなんてとっくに知ってるけど、簡単にそう言ってくるヤツは嫌いよ」
「そう言わないでよー。ボクは君にしか言ってないでしょー」

 この男毎日懲りないな、と思いながら昇降口まで階段を降りる。さっさと帰ろう。
 
 「……何?」

 靴箱を開ける私の手に重ねて扉を閉ざすソイツ。触れた手に熱を帯び、背中に体温を感じて、心拍数が一気に上がる。

 背後から耳元に、文化祭のステージで聞いた声で囁かれる。

「ねえ、俺にしなよ」

 さて、どうしたものか。 

10/10/2023, 11:24:26 AM