わたあめ。

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『お母さんのバカっ!!』

バタンッッと勢いよく居間の扉を閉めて、二階に続く階段をドタドタと上る。
部屋のドアも思い切り締めて、鍵をかけた。

ベッドにそのままダイブし、布団の中へと潜り込んだ。

誰かと喧嘩した時や上手くいかなかった時に必ず逃げ込む場所であり、自分が唯一素直でいられるのが布団の中……一人でいられる時だった。

母との喧嘩は日常茶飯事なのだが、今日は特に酷かった。

高校一年生である私は、母に進路の相談をした。

服飾デザイナーになりたいから専門学校を目指したいと話したのだが、母は猛反対。

どんなに説得を試みようとしても、大学へ行くべきだと頭ごなしに叱られ、夢を否定されて喧嘩勃発。

大声で怒鳴り散らして今に至る。


母も私の将来を考えて、言ってくれている事は分かる。
それでも、夢を拒絶されたのは本当に悲しかった。

少しでも聞こうとしてくれなかったのが、なんだかとても寂しかったのだ。

簡単になれるものじゃないとわかっているからこそ、本気で今から頑張っているのに、それを一番身近な存在に拒まれるのはかなり辛い。

ダメージが強く、布団の中で体を縮こませることしか出来なかった。


コンコン、

部屋の扉が叩かれて声がする。

「開けて?」

声の主は、私の大好きな兄だ。

幼い頃から母に怒られた時、いつも話を聞いてくれていた。
今日は仕事で遅くなると聞いていたが、もう帰ってきたんだろうか。

のそのそと布団から出て扉の鍵を開けると、ドアノブが周り扉が開いた。

そこには困ったように見つめる兄がいた。

『遅くなるんじゃなかったの?』

「予定よりも早く帰れたんだけど……母さんと喧嘩したのか?」

小声でそう尋ねられ、答えたくなかったのでそっぽを向いた。

「またか……」

『だって!!否定されるだけじゃ納得できない!!』

大きな声に驚いたのか、兄が目を少し見開き私を見る。

『私は遊びでデザイナーになりたいって言ってるわけじゃないんだよ?真面目に考えて、調べた結果で言っているの。それをただ、真っ向から否定だけされても……はい、そうですかとはならない。』

久しぶりに自分の胸の内を話したからか、目にはじんわりと涙が溜まっていく。

涙を流しながらも、自分の中でも整理できてなかった思いをが口から出てくる。
兄は、黙って静かに聞いてくれていた。

全て吐き出し切る頃には、涙で顔はグズグズになっていて、兄は私の頭をポンポンと撫でる。

「お前もきちんと考えていたんだな。さすが高校生。」

子供扱いされている気がしてちょっと不服だが、自分の気持ちを受け入れて貰えた気がしたからか、少し安心した。

「自分の夢を否定されるのは、苦しいと思う。けどお母さんも心配なんだよ。」

優しく兄に諭されるが、今の私にはその言葉を受け取れるほど心に余裕は無い。

むすーっと拗ねていると、兄はフッと笑って頭を撫でてた手を方に移した。

「だから、お母さんが安心できるくらい夢に対する熱意を語ってやれ。俺に色々言えたんだからできるだろ。」

顔を上げ思わず兄を見た。
まさか、そんな肯定的な言葉を貰えると思わなかったからだ。

初めて自分の意見を認めて貰えた気がして、また涙が出た。

「ほら、無くならお風呂で泣いてこい。じゃないと明日目が腫れるぞ。今日せっかく柚子買ってきたんだから、ゆず湯入らないともったいないぞ。」

兄に背中を押され、お風呂場の方へ連れていかれる。

『じ、自分で行くから!!』

「そう?んじゃ、ごゆっくり~」

兄はあっさり手を離して、自室へ戻っていこうと踵をかえす。

『お兄ちゃん。』

「ん?」

『……ありがとう。』

「おうよ。」


準備をして浴室へ入ると、ゆずの香りが充満していた。

柚子が二、三個お風呂に浮かんでいる。

早速湯船に漬かり柚子をちょんちょん触ると、ぷかぷかと浮き沈みする。

『そういえば、子供の頃はよくお母さんとお風呂はいって柚子でも遊んでたな。』

子供の頃はよく母とお風呂に入って、キャッキャと楽しそうに笑っていた。

ふとその頃の思い出が蘇り、笑みがこぼれる。

風呂の中でぼんやりしていると、優しいゆずの匂いとお風呂のおかげで、気持ちが落ち着いていた。
さっきまでこんがらがって纏まらなかった事も、綺麗に纏まっていく。


やっぱり服飾デザイナーは諦めたくない。


すぐ認めて貰えなくてもいい、でも必ず認めさせるんだ。

そう意気込んで、もう一度深く方まで湯船に浸かる。

ポカポカと体が温まっていき、まるでゆず湯から元気を貰えたような気がした。

#ゆずの香り

12/23/2023, 4:57:39 AM