夜の帳が降りて、稀に見る大雨が降った日だった。
薄暗い裏道から1本外へ出れば、街のネオンが鈍く輝き、人が行き交う飲み屋街。だが今日のような大雨で人はほぼいないし、夜も深まってネオンもちらほら消えてきた。
そう、そんな日だった。
自分がその道を歩いた時、所謂裏社会の人間しか使わないような暗くて、狭い、そんな道から反響した発砲音が聞こえた。確か、今日、ここの辺りで兄貴が敵幹部との取引に出たんじゃなかったか…?いや、兄貴は強い。幾ら幹部といえども簡単にやられるようなたまじゃ、いや、でも……。
何故か胸がざわついた。確認だけだと心をしずめて、足音を忍ばせて裏道へ入った。
奥まで入ったところで、暗くてよく見えなかったが、確実に足元が変わった。それは薄くたまった水を踏みながら歩いていたのが、何か違うものになったということだ。
「兄貴……?」
小さく呼びかけるが、人っ子一人反応しない。少し危険だが、スマホのライトで辺りを照らしてみた。
目線の高さには誰もおらず、視線を下に向ければ真っ赤な水溜まりの中心に兄貴が倒れていた。思わず持ち物を落としてしまった。だがそんなこと構うことでは無い。
「兄貴っ!!」
そう言って彼の頭を自分の膝にのせ、怪我の具合と安否を確認する。出血は腹から、顔色は青白くて、とても悪い。きっと助からないだろう。でも、でも!
自分はうわ言のように兄貴に大丈夫だ、必ず助かる、と声をかけることしか出来なかった。そんな自分の頬に兄貴が弱々しく手を伸ばした。自分はその手を取って頬に添えるのを手伝った。兄貴の次の言葉を待つ。兄貴は薄く口を開いて
「1つだけ、約束しろ…。お前は、もう、足洗え。真っ当に、生きるんだ。お前が、人に恨まれて、こんな、意味わかんねぇ、暗くて、くせぇ道で、死ぬ…なんて、俺、絶対やだ。」
わかったな、そう言ってへらっと笑ったあと、兄貴の手は重力にしたがって真っ赤な水溜まりに落ちた。
雨は善い。泣き声が誰にも聞こえないから。自分はその日、人生で一番泣いたと思う。
嗚呼、自分の人生にたった一つ後悔があるなら、俺が兄貴の約束守らずに兄貴の仇取ろうとして同じテツ、踏んだことかなぁ……。立ち向かったことに後悔はない。けど、まだ誰も知らない。兄貴を殺したヤツらは、地球侵略を企む宇宙の……
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私が街のネオンがまだ少し残ってる道を選んで帰路を辿ってたとき、所謂裏社会の人間しか知らないような道から、私の聞き慣れた人の頭を足の裏で潰した様な音が聞こえてきた。
……確か今日は先輩がこの辺りで…………
4/3/2024, 3:00:04 PM