仮色

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【仲間】

「おら待て犯人!!」
「っ、俺があっちから待ち伏せするから頼むぞ」
「おうよ!」

俺よりも若干速い足を全力で使って、相棒が離れていく。
犯人をずっと追いかけているので息が切れるが、あいつに負ける訳にはいかない。
犯人の姿は見えなくなってしまったが、ここからは一本道だ。
さあ、こちらからも追いかけるぞ、と駆け出した時だった。

「う、うわぁぁぁあああ!!!」

死角だった横の道から、異常な大声を出して人影が突っ込んで来る。

「うおっ!?」

咄嗟に避けてから人影を見ると、それは今追いかけていた犯人だった。
くそ、奥に行ったと思ってたら隠れてたか。
呻く犯人の手元にはキラリと光るなにかがある。
光るものが包丁だと理解した途端、どっと冷や汗が吹き出た。

(あっっぶね〜!危うくお陀仏になるところだったな…)

警棒を腰から取り出して、犯人に構える。
犯人はギラギラと包丁に負けないくらいのイカれた目をしていて、今にも飛び掛かってきそうだった。

あああぁぁああ!!!と狂った声を出して犯人がこちらに向かってくる。

「せい、やっ!!」

バキッ、という少々不穏な音がして、犯人は五体投地のポーズにさせられた。
…俺は何もしていない。やったのは相棒だ。
ほら、証拠にここから一歩も動いていない。

「案外早かったな」
「もう待てど待てど来ねぇから焦ったわ」

ふぅー、とひと仕事を終えた相棒は息をついた。
さんきゅ、と短く言うと、おうよ、とにかっと歯を見せて返事をされる。
こいつマジで学生の時から変わんねぇな、と毎回のごとく思いながら、犯人に手錠を掛ける。

「えー、18時54分、犯人確保」
「え、ちょっと待て、こいつ俺らで運ぶのか」
「…まぁーー、この道にパトカーは入れないわな」

まじかよ〜…と面倒くさそうに犯人をどうにかして運ぼうとする相棒を見て、俺は思わず笑っていた。



警察に入った時から一緒に事件を解決していた。
でも、こいつはいつまでも変わらないままだ。

…変わらないままで居てくれる。
俺には、そのことがどうしようもなく輝いて見えてしまうのだ。

12/11/2023, 9:54:35 AM