紅月 琥珀

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 その日は何の変哲もない、平和な1日になる予定だった。
 彼氏と一緒に登校して、授業を受けて、放課後は部活に勤しみ家路につく。
 そんな有り触れた日になるはずだったのに、どうして変わってしまったのだろう?

 あの日、目の前でクラスメイトが結晶化して、不安だったから別のクラスの彼氏の元に行ったのに⋯⋯彼は既に結晶化していた。
 初めは分からなかったけど、友達が説明してくれて、彼からの手紙も読んで⋯⋯堪えきれずに泣きながら、彼だった結晶を抱きしめる。
 正直、彼と一緒になれるなら結晶化しても良いって思ってた。でも、結果として私は人のまま⋯⋯彼だった結晶が綺麗な弓に変わっただけだった。
 それから友人は何も言わずに寄り添ってくれて、それが少しありがたかった。
 しかし、少しすると変な叫び声みたいなのが聞こえて、窓から外を見ると巨大な化け物が現れて、人を食べている。
 あまりの光景にへたり込み、荒い呼吸を繰り返すだけで声も出せなかった。
 そんな中、彼だった結晶弓を借りたいと言ってきた友人に何とか頷くと、彼女はそれを窓辺で構えて、何も番えていない状態で放つ。
 苦しそうに絶叫する化け物達。それから彼女は屋上へ行き、1人で化け物達がこちらに近付いて来ないように戦ってくれた。
 そのおかげで、学校内に留まっていた私達は、生き延びることが出来た。

 夜は2人で見張りを交代しながら眠る。彼女の手は何度も弓を射ったせいでぼろぼろになっていた。応急処置はしたけど、ちゃんとした物じゃないから余計に心配になる。
 それでも⋯⋯朝は必ずやってくる。
 治らない傷と前日の疲労で少しふらつく彼女は、それでも一撃で化け物達を撃破していく。
 でも、刻一刻と差し迫る友人の限界に⋯⋯私は遂に覚悟する。

『もう限界だよ、その弓を放して?』
 静かに言った言葉に首を横に振る友人。
 曰く、誰かがやらなければもう生き残れないのだと。
 ならそれは貴女じゃなくても良いはずでしょ?
 一撃では無理かもしれないけど⋯⋯私だって弓道部なんだ。だから、きっと出来るはず。
 彼女は少し心配そうにこちらをみていたけど、最終的には折れてくれた。

 私は彼女から結晶弓を受け取り、射の構えをとる。
 相手を見据えて、深呼吸しながら心を落ち着けて⋯⋯何も番えずに弓を引くと、少しずつ弓の―――恐らく通常なら矢が番えられている部分からバチバチと音を鳴らしながら矢のような物が姿を現していく。
 そして⋯⋯それを放つと、その周辺にいた化け物達が一斉に苦しそうな絶叫を上げて息絶えた。

 目覚めるは闘志。
 心で芽吹かすのは流水の如し憤怒。
 それを見据える先の化け物達へと向け、この手に感じる“君”を思いながら、その日私は友達と生き残るために⋯⋯戦いの日々へと身を投じるのだった。

3/1/2025, 2:13:35 PM