「ねぇ、私の為に死んでくれる?」
僕は微笑んで
「いいよ」と言った。
今でも目に焼き付いてる。彼女の姿。あの時ほど美しいと感じることはもうないかもしれない。
すぐに消えてしまいそうな世界で、彼女だけがはっきりと存在していた。そんな感覚。
「加藤さん、いつもお疲れ様です。」
名前を呼ばれてやっと、こちらに意識を戻した。
「…どうも。」
自分でも驚くほど無愛想だなっと考えながら、今の彼女に意識を向ける。
「私はこれで失礼しますね。」
顔が曖昧な看護師が病室を後にした。
目を開けることのない彼女と僕だけが、静かな病室に取り残される。2人だけの世界。
曖昧で不安定な世界で僕は彼女を愛し続ける。
そこに意味がなくていい。
僕が彼女を愛している。この事実だけでいい。
だって僕は愛という感情だけで、
一生をかけて彼女の為に死んでいくのだから。
僕はそっと彼女に呟く。
「どんな君も愛してるよ。また明日。」
5/16/2024, 2:45:39 PM