夜兎

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ともに過ごせる時間は幸福。

「ま、待って……階段何段あるの?」

「365段。1年、365日賑わうようにって願いが込められてるんじゃなかったかな。」

「ひぇ…挫折しそう。」

関東某所、古くから温泉地として有名な場所に来た。
顔色一つ変えず、階段を登っていく恋人の後ろ姿に待ったをかけた。思わず弱音を吐けば、彼は異変に気付いて振り返り足早に駆け寄ってきた。
平日に訪れたのにも関わらず人気は多い。また急勾配の階段を登ることから息が上がり疲労が溜まっていく。
彼は一体何を見せたいのか。
意図が分からないまま、また階段を登り始める。

「わぁ……綺麗!」

「気に入ってくれた?」
 
「うん。橋も景色と一体となってていいね」

階段を登り終わり、頂上にある神社に参拝した。
彼に手招きされ案内に従ってついていく。舗装された道を歩く事数十分。陽の光に照らされながら、一面を赤く染める紅葉が目に入った。その側には赤い欄干の橋がある。観光客もおり賑わっていた。
そのなかで、にこやかに笑う恋人の顔色を伺う。

「ねぇ、何で此処に連れてきてくれたの?」

「お詫び。誕生日を祝う事が出来なかったからさ」

「別に気にしてなかったのに……ありがとね」

何だか照れくさくて彼の顔を見れない。
手を伸ばし彼の手を握れば、優しく握り返された。
伝わる温もりが心地よく手を離したくない。

「来年も一緒に来よう。」

黙って頷き返した。





暦の上では秋ですので、紅葉の話をお楽しみください。

8/30/2025, 11:05:25 AM