窓の向こうは数百年も前から、嵐だった。風が巻き上げるような物体は既になく、地面をえぐり砂埃を散らしながら唸りを上げる。雨粒が窓を叩いている。だが、この施設の住民にとってそれは慣れ親しんだ光景であり、脅威ではなかった。施設は長年の嵐に適応し、風に飛ばされることも無ければ、雷に打たれ崩れることなど、万に一つすらありえないのだ。
「ねぇ」
夜。明かりの消した部屋で、少年が普段は閉ざされているカーテンをおもむろに開いた。次々と落ちる雷が暗い部屋を照らす。
「もしさ、この嵐の中に飛び出してでも成し遂げたいことがあったとしたら、君はどうする?」
光る雷の数を数えながらルームメイトの友人に訪ねた。
「何、外に出たいの?」
「ふふ、違うよ」
普段の冷たい態度とは裏腹に、心配するような声色が隠しきれていなくて、笑ってしまった。友人はベッドから起き上がり、少年に並んで、少年の顔色を控えめに伺いながら窓を見る。普段から突拍子もないことばかりしているから、余程心配されているようだ。
「なんてことない。ただなんとなく聞いただけさ。で、どうするの? 外に出れる?」
「嫌だよ。どんなに大金積まれたって。まだ死ぬ予定なんかない」
「そうだよね。僕だってそう。嵐は怖いもの」
窓を見る。一際大きな雷が光った。音は聞こえない。そういう施設だ。少年たちは、生まれてから一度も、雷の音を聞いたことがなかった。
「弱いね、僕たち。この施設と大人たちに守られて、一度も危険になんて出会うこともなく終わるんだ」
「もう寝よう。お前、疲れてるんだよ」
友人はカーテンを閉じ、少年の腕を引張った。部屋に再び暗闇が広がる。少年は静かに頷いて、友人とそれぞれのベッドに潜った。起きたら朝がやってくる。朝を知らせる放送がなるのだ。窓の外の景色が変わらず嵐が支配していても、施設内では安全に不自由なく暮らせる。それでも少年たちは、意味もなく嵐に怯えていた。
(大きく編集しました。ハートを頂いておきながら、申し訳ないです。しかもあまりお題に沿っていない…)
7/29/2023, 11:43:28 AM