涙の理由は、彼の顔の上に浮かんでいた。
「ちょ、待って……マジ、ごめん。俺……」
私は彼の手を引いた。
あんまりにも月が綺麗だったので、彼の両の目に映る月は、おそらくぐにゃぐにゃに滲んでいることだろうと思った。
私はそれに憤慨を覚えた。
「涼太は、私が嬉しいのに、嬉しくないって言うの? それとも、普段、鉄面皮なんて言われてるから、その反動?」
私はちょっと、酷いことを言っている自覚はあったのだけれど、それでも、この泣いている恋人未満の幼なじみが、泣きわめいていることを不甲斐なく思っていたのだ。
「俺、もっと、しっかりするよ……すまん、今はそれしか、言えねぇけど、俺、お前のこと」
好きって言って欲しかったのだろうか。
わからない。
でも、涼太とこれ以上の関係になることは、もしかしたら、予定調和?
実のところ、私の願いは叶ってしまったのだった。
「え?」
抱擁された。
冷たく、学ランに包まれた体は固くて、それでいて、その普段の顔のどこに隠されているんだろうっていう表情。
くしゃくしゃの、子供みたいな、泣き顔。
腹をこづいたら、途端に笑い出した。
10/10/2023, 10:17:34 AM