試験の日に見た夢は、高い空から落ちる夢。真っ青な空と、あちこちに浮かぶ雲。その中をどこまでも落ちていく。不思議と恐怖は無かった。
受験戦争、なんて言葉がしっくり来てしまうくらい、ここ数年はピリピリしていた。母は生真面目で一生懸命な人だから、私のために痛々しいくらい必死になってくれた。
「お母さん、自分が行きたかったあの学校にあなたが受験を決めてくれたこと、本当に嬉しいの。あなたならきっと素敵な娘役になれるわ」
ことあるごとにそう言って、私を励ましてくれた。日々の振る舞いや言葉遣い、食事の管理も、常に母は気を配り、一切妥協がなかった。
「大丈夫、あなたならできる」
精一杯の笑顔を貼り付けた試験日を過ぎてからは、私よりも結果を気にして落ち着かなかった。気にしたところで結果は変わらないのに。
私にはやりたいことがある。受験勉強の最中に芽生えた感情が、あの過酷な戦禍においても進み続けられる私でいさせてくれた。それを叶えるためにも、絶対に志望校に合格したい。
そしてついに、私は奇跡を手にした。合格通知を受け取った時は、嬉しくてどうにかなりそうだった。あぁ、これで私は私のやりたいことが出来るんだ、って。目の前に広がる晴れ晴れとした空は、夢の中より美しく見えた。
部屋には母に宛てた手紙を置いてきた。面と向かって上手く伝えられなかった思いを、改めて文字にして伝えたくて。
――ねぇ、お母さん。
「聞きました?あそこのお嬢さん、自殺だって」
「どうしてかしらねぇ。志望校に合格したって、お母さんすごく喜んでらしたのに」
――私の人生は、私のものだよ。
〉落下 22.6.18
6/18/2022, 1:12:48 PM