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 夜の緞帳を降ろした静かな海。鏡のように広がる星々は海面に光を纏わせて波打っている。裸足で踏み入れたことを咎めるような冷たく刺す痛みははだんだんと薄れていた。
 
 月の光は真っ直ぐに銀色の道を浮かび上がらせる。漂うように、何度も、何度も波に攫われながら足を踏みしめた。ゆらゆらと揺蕩いながら波紋は外側へと広がっていく。服が鉛のように重い。吐き出される息は掠れて、苦しくてたまらない。必死に生きようと藻掻いているみたいだ。震える瞼を持ち上げて、痺れる唇を噛み締めた。
 
 
 希死念慮というものは私から付き纏って離れることはなかった。「消えてしまいたい」と現状から逃れたい空っぽの言葉はぐるぐると心臓へと渦を巻いて、気付けば私をゆっくりと飲み込んでいく。その衝動だったのかもしれない。ただ不意に何かを求めるように私は突き動かされて、ゆっくりと今も死へと向かっている。
 ふと腕を引かれるように背後を振り返った。頼りない影が足元で揺れている。体力はとっくに尽きて後戻りすることは出来ない。心は澄み切って、導かれるように光の中へと沈んでいく。
 神秘的でどこまでも果てがない。頭上に美しく佇む満月は祝福するように輝いていた。

1/11/2023, 3:54:59 PM