かも肉

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作品48 君と一緒に


《1》
 とある日の放課後、私は彼女の家に遊びに行った。そのときにあったお話。覚えていることだけ話す。

「どうしたらあの人と一緒になれるかな」
「え、なになに?好きな人でもできたん?」
 なんの前触れもなく発せられた、友人の恋愛相談としかとれないその発言に、思わずそう聞き返してしまった。
「別に好きってわけじゃないけど。いや好きなのかなこれ。……わかんない」
 あやふやな言い方をする彼女を、問い詰める。
「相手は?部活は何してる?何組?てかそもそも何年?」
 面白い噂が無く、日々退屈していた私にとって、彼女のその発言は、十分に興味をそそられた。
「多分知らない人だと思う」
「ならいいよ名前なんて。それでそれで?」
「えっとね。同じ学年だけど他組の人でね、部活は確か運動系って言ってた。バスケだっけな」
 頭の中でイメージをたてていこうとしたが、情報が少なすぎて全くできなかった。
「どんな人?」
「背が高くて、力があって、好きなことには真っ直ぐな人。とっても優しいの」
 ベタ褒めだ。
「どういうところを好きになったの?」
「だから好きかどうかわからないって……」
「強いて言うなら!」
「えー。……秘密」
 いたずらっぽく彼女は笑った。そんなこと言われたら、もっと気になってしまう。さらに聞こうとしたけど、流石にここまでにしといてやろう。
「えっと何だっけ?どうしたら一緒になれるかだっけ?」
「うん」
「それは付き合いたいってこと?」
「……まあ、そういうことかな」
「そりゃあ告るしかないじゃん!」
「そんな仲じゃないし……」
 恥ずかしそうにして、手に持っていたぬいぐるみを抱きしめる彼女。
 ええい焦れったい。こうなったら私が君たちの恋のキューピッドになってやろう。
「よおし。私に任せなさい!」
「よろしくお願いします!」
 急に元気になった彼女を見て、ますますやる気が出てきた。
「まず連絡先!」
「インスタ交換してます!」
「つぎに会話!」
「寝落ち通話するくらいまでならいけました!」
「え!?」
「え??」
「そ、それじゃ実際に遊びに行く!」
「映画館一緒に行きました!」
「もう付き合っちゃいなよ……」
 秒でキューピッドの役目は消えてしまった。というより、そもそも必要なかったようだ。
 やけくそに、彼女が用意してくれていたジュースを一気に飲み干す。なにこれ何味だ。
「私の出る幕はなかったようで」
「そんなこと言わないで……」
「私に何しろってんのよ……」
「教えてほしくて」
「何を」
「どうしたらあの人ともっと仲良くなれるかを」
「知らないよぉ」
「そこをどうか!お願い!」
「うーん……。何かしてくれるならいいよ」
「え……。そうだ!そのジュース何味か教えてあげる!」
 なんと微妙な。いやでも、気になる……。
「……しゃーなしだ。教えたげる」
「ありがと!」
 と言ったところで、特に何もないし、思いつかなかった。無理やり頭をフル回転させる。昔見た恋愛系の映画、小説、漫画、心理学。
 うう。頭を使うとなんだか眠くなる。馬鹿の定めだ。それでも頑張って、思い出せるだけ思い出そうとする。
「うーん。……秘密の共有とか?」
 やっとこさで言葉を絞り出す。反応を見たくて顔を覗き込むと、彼女は嬉しそうな表情をしていた。
「いいねそれ!」
「よかったー」
 次は役目を果たせた。
「どんな秘密にしようかな。何がいいと思う?」
「それはご自身で考えてくださいまし」
 そう言いながら床に寝転ぶ。
「大丈夫?」
「だいじょぶー。馬鹿が頭を使いすぎると、眠くなっちゃうんだよね」
「そっか」
「あとで起こしてー」
「んー」
 うとうとしていると、ふと、私が考える条件として彼女が出してきた物の答えが気になった。
「そういえばさ。あのジュースってなに味なの」
「普通のオレンジジュース」
 なんだ。つまんないの。
「あと睡眠薬の味もしたかもね」
「へー。……え?」
「ねえねえ。私、いい事思いついた」
 急にいやな予感がした。
「お願いがあるんだけど」
「まってこわいやだ」
「あの人とする秘密作りに協力してくれる?」
 彼女が机の引き出しから何かを取り出し、それをこちらに見せる。予感が当たってしまった。
「ねえやだ。やだやだやだ」
「もちろんいいって言ってくれるよね!」
「ちょっとまってわた」
「本当に優しい!いつもありがと!」
 私の話を聞け。そう言おうとしたはずなのに、眠くて舌が回らない。そもそもなにをいおうとしたっけ。あれ。ねむくておもいだせない。
「安心して!ここまでしてくれたんだから、私、あの人と付き合えるよう頑張るよ!」
 なにかいってる。ききとれない。ねむい。やばいきがする。にげなきゃ。
「まだ起きてるー?」
やばい。
「はやく寝てね」
にげなきゃ。
「そろそろかな」
ねむけが。
「それじゃ」
こわい。
「さよなら。おやすみ」
あたまがまわらなくなった。
 
 ここまでしか覚えていない。私はどうなったんだろう。それはもう、わからない。
 どんなに知りたいと願っても。

《2》
 目標を一度決めたらそれを達成しないと気がすまないという、悪い性格だった。それは恋愛でも同じ。目標達成のためならなんでもできる。法に触れることでも何でも。
 こうやってあの子の行動パターンや性格などを考えて、それに沿った準備をするのは、むしろ楽しかった。
 さあ、ラストスパートだ。
 やること全てを無事済ませたのをもう一度確認し、あの人にメッセージを送る。
『どうしよう』
『わたし』
『ひところしちゃった』
 すぐ既読がついた。メッセージを打ち込んでいるのが見える。返事が来る前に、もう一度メッセージを送る。
『たすけて』
 こう言えばあの人が助けてくれるのはすぐわかる。
 しばらくすると返信が来た。
『僕がどうにかする』
『どうにかって?』
 期待を込めて、次にくる言葉を待つ。
『   』
 笑みがこぼれてしまった。
 証拠隠滅。死体破棄。共犯者。とびっきりの秘密の共有。
 これであの人とずっと一緒になれるだろう。
 あの子だったものに話しかける。
 本当にありがとう。絶対あなたの死を無駄にはしないよ。

《3》
 突然彼女から来たメッセージ。当然動揺した。犯罪者、死体、殺人、疑問、警察、法律。色んな言葉が、しばらく僕の頭の中を埋め尽くした。
 でも待って。もし僕が彼女を助けたら、それって、一緒になれるんじゃない?
 期待を込め、返信を送る。
『僕がどうにかする』
『どうにかって?』
 罪を被るよと送ろうとして、指を止める。それじゃあ一緒にはなれない。なるには共犯になんなきゃ。そのためには?
 死体遺棄。
 指をもう一度動かした。
『隠そう』
 取り返しのつかないことをした気がするのに、笑みがこぼれてしまう。なぜだろう。これで一生、君と一緒になれるからかな。


⸺⸺⸺
どこで人が変わってるかわかるように《》で番号書いてます。もっといい書き方あるかもだけどわからない。
薬どこで手に入れたんだよとか、そんなやばい思考なるわけないだろとか色々あるけど、創作物は粗だらけのほうがちょうどいいってことでご勘弁。

1/7/2025, 7:01:29 AM