『ススキ』2023.11.10
春に七草があるように、秋にも七草がある。
奈良時代の歌人、山上臣憶良が万葉集に『秋の野の花を詠みし歌二首』として、次の二つの歌を詠んだ。
『秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花』
『萩の花尾花葛花嬰麦の花姫部志また藤袴朝貌の花』
この朝貌であるが、桔梗だったり牽牛子や木槿と諸説ある。
などと言うことを、元高校教師をしていた彼がなんの脈絡もなくそんな話をしてきた。
さらに続けて、五七七五七七となっていることから、こういった歌を旋頭歌と言うのだとも教えてくれた。
それがどうしたのかと聞くと彼は、呑気に秋だねと宣った。
彼の唐突な授業は今に始まったことではない。自分たちの間に会話がなくなると、思い出したかのように授業を始めるのだ。
「ススキと言えば、まさしく秋って感じだもんな」
心優しい我らが最年長はそんな彼の授業を聞いて、うんうんと頷いている。高身長の彼は興味なさそうにスマートフォンを弄っているし、金髪の彼は目を閉じている。もちろん、自分もあまり興味はない。
「七草ってことは食えるのか?」
「秋の七草は観賞用らしいよ」
食べられない、と分かって余計に興味がそがれた。
秋の月夜に映えるススキも素晴らしいが、やはり腹が膨れねば意味がない。
芸術より読書より、食欲の秋こそ至高なのである。
11/10/2023, 12:59:11 PM