H₂O

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力を込めて


その子はひどく傷付いていた。体も、心も、ボロボロでもう無理だと静かに涙を流していた。
そっと、その子に手を差し伸べて、壊れないように抱きしめる。それは、まるで暗闇の中の一筋の光だったと後に彼女は語る。
そして、その日から、彼女がもう二度と傷付かずに済むように環境を整えた。三食食事つきの安心して寝れる部屋、これ以上磨耗しなくて済むように外との接触は最低限にして、ただただ生きているだけでいいと底のないような愛を与えた。
ようやく、彼女が前を向けるようになったとき、初めてがんばれ、と励ましの言葉を口にした。玄関から外へ踏み出すその背中に力を込めて手で押した。
「うん、いってきます」
そう花が咲いたように笑って家を出る彼女は、きっともう大丈夫だろう。きっと、もうあんな風になることはないだろう。そう思いながら、少し静かになった部屋の中で、コーヒーを啜った。

10/7/2023, 2:05:53 PM