明永 弓月

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 合わせ鏡。零時に覗き込んではいけない、丑三つ刻に行ってはいけないと言われている。

 たかが迷信。都市伝説。

 未来の自分を見ることができる。そう言われて想像する「未来の自分」が二十代や三十代の様子であることも噂の中心が十代の中高生であることを考えれば不思議なことではない。死相なんて想像もしないはずである。ところが、合わせ鏡は未来の自分としてその人物の死相を見せるという。
 零時に覗き込むのは正直に言えばまだかわいい方だ。丑三つ刻の合わせ鏡は異界へとつながってしまう。その結果、その異界のもの、この世のものではないものがこちらの世界にやってくる。

 異界に興味があったあの子は、丑三つ刻に合わせ鏡を覗き込んだ。

 ――あなたは誰?

 あの子は人が変わったようだった。取り憑かれてしまった。別人と言っても過言ではない。クラスメイトも友だちも親兄弟も、誰も彼もが知らないあの子に困惑する。
 あの子はどこにいってしまったのか。確かにあの子の姿かたちをしている。けれど、あの子の笑い方が違う。あの子の好む食べ物が違う。様々な違いが周囲を惑わす。本人にそのつもりはなくとも。
 鏡に映るあの子こそ、あの子かもしれない。

8/19/2024, 9:29:16 AM