Acogare

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────雑記。
幼い坊や(=彼)と放浪する無名小説家(=男)の話



彼はまだ言葉を余り知らない。
六年程しかまだこの世を生きていないからだ。
然し彼が感じた喜びや幸せが入り交じって形をなそうにも溢れてしまうくらいの最大の幸福を、何としてでも男に伝えたかった。それでも、彼の稚拙で少ない言葉ではとても言い表せることができそうになかった。
彼はただ一言、恐る恐る男に言葉を贈った。

『うれしい』

その短い音の響は、意味として、とても簡単な言葉であろう。然し彼のその言葉に乗せた感謝の気持ちは最大限に、真っ直ぐに男の心に響いた。
彼が使った言葉は、その瞬間だけ複雑で言葉にはできないほど沢山の意味を含んでいた。


私達が営んでいる"これ"は感情を言葉で表す、なんて単純な作業などでは決してない。
形も音も、手触りも何もない感情をどうにかして相手に伝える為に言葉は出来たのだ。
ただ綺麗な言葉を綺麗な風に並べて生きてきた男はこれもまた、言葉に出来ないほど感動した。
さて、男は小説家だ。
これからこの気持ちをどうにかして言葉にしようという
繊細で、精密で、丁寧で、尊い営みが始まるだろう。

4/12/2026, 2:19:17 PM