『ルール』
「今日も一日ルールを守って生活しましょう」
無機質な人口音声が街のあらゆる所から聞こえてきて、私はうんざりした。
「この街は呼吸がし辛い」
深呼吸をしようと空を見上げる。
青いけれど、透明な膜のようなものが挟まった青。
中の空気は人間が快適に暮らせる酸素濃度に調節されているらしい。
そして雨が降っても私たちに直接濡れないようにと、覆われているドームだ。
だから私は本当の空の青さを知らない。
時々その膜にナイフを突き立てて、破ってしまいたくなる。
もちろん、そんな事は出来ない。
私の点数が減ってしまう。
西暦XXXX年、世界には明確なルールが誕生した。
生活の様々な細かいルールも然ることながら、一番の特徴は減点法の適用であろう。
ルールを守らないと減点となり、点数がなくなれば市民権を失う。
つまり、人間社会から追放されるのだ。
そのため街のあらゆる所に気づかれない程小さなカメラとマイクが設置され、常に私たちを監視している。
(まるで家畜みたい)
そもそもの話、このルールは人間社会を学習した人工知能が定めたものである。
これを授業で習った時、世界を支配しているのはもはや人間ではないのだと思った。
人工知能という機械に支配された、機械が気持ちよく人間を管理するために作られたものではないのか。
そんな思いが燻り続けている。
「案外、追放された人たちは独自の社会作って暮らしてて、そっちのが生活しやすかったりして」
なんて夢想してみる。
授業ではドームの外の世界は紫外線が強すぎたり、人が住めない環境になっていると習った。
でも本当は知らない。
見たことないから。
特別なスーツを着て、外の調査に行く研究者にでもならない限り外の世界の本当はわからない。
「……あ、急がなきゃ」
遠くからチャイムが聞こえてきた。
このまま歩いていては遅刻してしまう。
私は走って学校に向かった。
「本日も無事に登校完了」
「了」
機械たちが彼女を見守る。
彼女は知らない。
世界は既に滅んでいて、唯一人生きるのは彼女だけであることを。
その事実を悟らせないために、機械たちはルールを作り上げたことを。
彼女こそが、人の為に作られた機械たちの希望であることを。
4/24/2024, 1:32:59 PM