北風吹きすさぶ夜の街。コートの襟を立て、首をすくめて背を丸め、
「ああ、寒い。」
晴れた夜空に冷たいオリオン座。輝かしいほど恨めしい。
「寒い。」
苛立ち紛れに吐き捨てる。はぁ、と零れた息は、白さも残さず風に払われ、カチカチと打ち鳴らす歯の音が頭蓋に忙しい。
なんだって、なんだって冬など来るのだろう。去年も一昨年も一昨々年も、葉の落ちた枝、地肌も露わな街路樹の脚。目にも寒々しく繰り返される季節。
冬眠できない猿の成れの果ては、失った毛皮の代りに、綿や獣毛、水鳥の羽、あれもこれもと体に巻き付けて震えるばかり。これじゃあまるで退化じゃないか。道をすれ違う犬の背に、わずかな羨望を投げかける。
キン、と冷たい空気に胸が沁みる。嘲るように咲いた椿の、塗りつぶすような色香に目を背け、まだ遠い薄紅色に思いを馳せる。
この冬に終わりをもたらし、新たな季節の到来を告げ、誇るように咲く花々。まだ、瞼の裏にしかないけれど。
待っている。去年も一昨年も一昨々年も、その季節の来るのを知っていた。だから今年も、
「寒い。」
耐えている。確信的なデジャ・ビュ。幾度も巡り合う、春。
【未来の記憶】
2/12/2025, 4:02:16 PM