沈黙が満ちる。
コップに注いだソーダの泡が、弾ける音さえ、聞こえていそうな沈黙。
外はギラギラとした夏の太陽が、惜しげもなく照りつけている。
青天井。
青くて高い空が、窓から見える。
回しっぱなしの扇風機が、ぶぅぅん、と唸る。
扇風機の、テープで固定していた首が、がくん、と折れて、項垂れる。
沈黙が、私たちを支配している。
君は言葉を発しない。
私も何も言えない。
私たちは向かい合わせに座って、ただ、沈黙の支配を甘受しながら、テーブルの上に置かれた炭酸を見つめている。
このテーブルで、唯一生き生きと動いていそうな炭酸の、泡が生まれ、浮き上がり、弾け飛ぶ様をただ2人で見つめている。
君の目には光はない。
私の目にも、きっと光などないだろう。
沈黙が満ちる。
遠くからニイニイゼミの声らしき声が聞こえる。
ウシガエルの低音が混じる。
扇風機は折れた首を項垂れたまま、ぶぅぅん.ぶぅぅぅんと断末魔のように唸っている。
私はこわばった右手で、コップを掴む。
生き生きとしたこの炭酸の泡を飲み干せば、私にも命が宿る気がして。
炭酸を口に運ぶ。
ぬるい。
ぬるい。
まるで、私と無口な君の間にある、死んだ時間のようだ。
今まで、ここを支配していた沈黙もぬるかった。
結局、これを飲み干しても、私は変われないのだろう。
そう思いながらも、味気なく不味い、沈黙のような、ぬるい炭酸を飲み干す。
ぬるく緩慢な炭酸が、萎んだ喉を、ぬるりぬるりと落ちていく。
沈黙がこの場には満ちている。
もう変わることのない沈黙が。
首が折れ、断末魔すら低く静かに唸ることしか許されていない、私たちの沈黙が。
沈黙は、この部屋を支配している。
ぬるい炭酸と無口な君。
それから、哀れで愚かな私を。
8/4/2025, 1:20:34 AM