雪は一年を通して景色を最も変化させるものであるといえる。
夏に見える積乱雲は勢いと迫力があり、それはそれで衝撃をもたらすものであるが、何よりも遠く、空の領域での出来事だ。
夏の雲は、宗教画のように、濃淡があり、それこそ何者かが描いたかのような、どこか非現実的なもののように私には見える。
それに対し雪はどうだろうか。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」『雪国』
小説『雪国』の序文である。
どうだろう、辺り一面に広がる雪の景色が容易に想像できるではないか。
雪。四季のある日本に住んでいる者であれば誰もが体験する非日常感、どこか他の世界に舞い込んだかのような空気感を想像できるだろう。
実際、小説『雪国』でも、主人公の島村はとても冷めた性格であり、発言、行動ともに無責任である。
まるで、「俺はこの世界の住人ではない」とでも言ったような……。
そう。まさに雪の与える印象にそっくりだ。
私が『雪国』を読んだ当初の感想としては、主人公の島村があまりに冷めており、当事者意識の欠片もない薄情な人間だと思っていたが、今思えば、それは雪の与える非日常感も少なからず影響していたのかもしれない。
ギリシア神話において、「冬」は豊穣神デメテルの悲しみの結果として生まれた季節だという逸話がある。
冬の間は娘のペルセポネが冥界の世界への行ってしまい、その間、デメテルは悲しみ続けているという。
豊穣神の悲嘆により、草木は枯れ、世界は純白に包まれる。
何が言いたいのだろう。
……ペダンティックに語りたかっただけだな。
今年も雪は降るのだろう。
初雪は下宿先で迎えることになるのだろう。
「雪が降っている」と家族に報告することなく過ごす冬。
……そういえば、人間のアイデンティティというものはごくごくささいな物に支えられているという。
「ただいま」と言えば「おかえり」と返してくれる人がいること。
毎日のご飯を作ってくれる人がいること。
夕飯を共に食べたり、一緒にこたつに入って温まったり……
挙げ始めたらきりがない。
着地点が見えない。ここで終わろう。
12/15/2024, 1:16:02 PM