目を覚ますと私は病院というところにいたらしい。
看護師さんが
「ここがどこか分かりますか?」と言ったが,
私は答えることが出来なかった。
消しゴムで綺麗に消されているように真っ白な頭の中。私は言葉を失い,過去を失った。
私は事故にあったそうだ。
事故に遭ったと言われたらそんな気がしてきた。
誰かと一緒に歩いていたような,いないような。
なんだか廊下が騒がしくなった。
「...ちょっと!起きたなら連絡してよ!!」
「...はい?」
突然こっちを向いて男の人が話しかけてきた。
誰だろう...?
「すいません。誰ですか?」
こんなことを聞くと
彼はひどく悲しそうな顔をしていた。
「僕は,君の彼氏だよ。急にごめんね。
そんなこと急に言われてもわかんないよね。」
彼は言った。
「...ごめんなさい。あまり覚えてなくて...。」
「そっか...じゃあ今日は帰るね。
明日気持ちが落ち着いたらまた来るね。」
そう言って彼は病室を出た。
彼は最後まで悲しい顔をしていた。
何時間経っても,
私はその顔が脳裏に焼き付いて離れない。
記憶が戻ってくるのを願いながら私は目をつぶった。
─────『脳裏』
11/9/2022, 1:58:57 PM