しらす

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 お題 「冬は一緒に」

注意

この物語はフィクションです。

実際の人物や団体とは何の関係もございません。

物語 ▼

 12月19日、気温だけがどんどん寒くなり、街にイルミネーションが飾られてくる事だけが、冬の訪れを教えてくれていた。

今年、高校2年生女の子「瑞希」は、午後8時の塾帰り、ひとつ、白い息を吐いた。

寒空の下、よく目立つ赤いマフラーに、腰まである長い黒髪が絡みついて、直すのも面倒だ。

しかも、とても寒いというのにミニスカートにタイツで、凍え死にそうだ。

「あーあ……、もっとあったかい格好すれば良かったぁ…」

瑞希は、悲しそうに呟く。

人通りの少ない道路を、一人寂しく歩くのは、思ったよりも辛くて、喉が冷える。

いつも青信号になるのが遅い信号が、丁度、赤色に変わってしまい、また一つため息を吐けば、コートのポケットから携帯を取り出して、メッセージアプリを開いて、「恭平」という名をタップする。

すると、メッセージの履歴が明るい光と共に、ぱっ、と出てくる。

昨日自身から送った、「クリスマスは空いてる?」というメッセージに、既読はついていなかった。

「恭平」というのは幼なじみの名前だ。

小学校からずっと一緒で、中学1年生、ずっと仲良くしてくれる彼に恋愛感情が芽生えたのだ。

だが、思春期になり、異性との会話を避けていくうちに、恭平はサッカー部でエースになりモテ男になり、話す事が減り、当然、「好き」だなんて伝えられなかった。

だが、それでも諦めきれなくて、同じ高校に必死で入って、ずっと追ってきた。

今、彼は学校での人気者で、私はその人気者に群がる一人。

幼なじみだからって、漫画やアニメのヒロインの様にはならない。

そんな事、知っていたはずなのに、

目頭が熱くなる。

「……なに…っ…、別に……」

あぁ……こんな事で…こんな事で泣きたくなんか無いのに。

必死に堪えれば堪えるほど、思いはこぼれ落ちてくる。

そんなこんなしていれば、青信号になっていた。

なのに、自分は金縛りにあったかの様に動けない。

考えるのは、子供の頃の事。

子供の頃は、私と恭平は仲が良くて、クリスマスはお泊まり会をして、プレゼント交換もして……沢山遊んで……

青信号がチカチカとし始める。

ひゅう、と冷たい風が吹いて、目頭の熱が消えていった。

「……って…あ、青信号逃しちゃうじゃん…」

どうせ渡れない、と諦めて立ち止まれば、また赤信号になった。

また、寂しい感覚が自身を襲う。

スマホをまたコートのポケットにしまえば、周りを見渡す。

都合良く友達や恭平が出てくるなんて事はない。

社会人や親子がちらほら居るだけだ。

こんな時、恭平が女の子連れてデートとかしてたら、こんな恋なんか諦められるのになぁ〜

なんて瑞希は思う。

ずっと、諦められなかった恋。

ミニスカートも、口調も、衣服も、

全部、彼の好むものにしたのに。

無駄に長い髪だって、失恋したら切ろうだとか、彼に愛想が尽きたら短くしようだとか考えていたくせに、曖昧なまま伸びていったものだ。

私って、面倒な女だなぁ、

自分の思いにムカついてしまう。

2度目の青信号、彼女は一歩目を踏み込むと同時に、考えた。

「今年の冬だけは……一緒に……」



……スマホの着信音は鳴らなかった。




ーーあとがき。

今回は叶わない恋のお話にしてみました。

最終的に、彼女の恋が叶う事はありません。

瑞希、という人物は諦めやすい性格をしています。

瑞希は、今回の叶わない恋を、「諦められない」と言っていますが、それは間違いで、本当は、「諦めたい」と思っています。

ですが、中学から高校まで、ずっと願ってきた恋を「諦めたい」なんて思うのは彼女にとっても悲しい事。

「諦められない」と思う方が、まだマシだと感じ、自分の思いを捻じ曲げているのです。

ですが、やはり『こんな時、恭平が女の子連れてデートとかしてたら、こんな恋なんか諦められるのになぁ〜』と、諦めざるおえない状況を望んだり、『今年の冬だけは……一緒に……』と、来年は諦める様な表現をしたりと、「もう諦めたい」という彼女の思いが伝わってきます。

とにかく、瑞希ちゃんには幸せになってもらいたいですね。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

皆様、最近は寒いので体調はお気をつけて、私はインフルエンザA型になりました。

ーー

12/19/2024, 5:19:07 AM