7/31 お題「だから、一人でいたい」
言ってしまえば、俺は怪物のようなものだ。体から無意識に発する毒は人を蝕み、やがて死に至らしめる。
人に触れることはできないし、触れたいとも思わない。この山奥で一人、獣を狩り、草や実を摘んで暮らしている。
「なるほど。そこに、私が来てしまったと」
「ああ。お前もここにいれば死ぬことになる」
「それが、そうは行かないのですよ」
修行中の僧侶だというその女は、目を細めて笑った。
「実はこう見えて呪われた身でして、死ぬことができんのです」
「…それで?」
「まあ、あなたのお側におっても死にはせんという事ですな」
「帰ってくれ」
俺は僧侶に背を向けた。
「俺は一人でいたいんだ」
「おや。その理由がなくなっても?」
「理由は毒のせいだけじゃない。俺は人間が嫌いだ」
「そうですか。では、私はこれで」
あっさりと僧侶は引き下がり、危なげなく坂を降りていく。俺はその背中を無言で見送る。
だが、妙な確信があった。
この僧侶は、次もまた来る。
(所要時間:13分)
7/31/2023, 12:54:45 PM