閉ざされた日記 君に会いたくて
海の底_23
“雨の降る音を 海が飲み込んで
私の耳にまで 水音は届かなかった。
それでも
君に会いたくてたまらないのは
きっと 雪の冷たさのせいだろう。”
博士の日記を見ると
藍色のインクが達筆な字で目立っていた。
本当は見てはいけないのだろうけど
博士は今 体調を崩されているから
起きないだろうし 大丈夫だ。
綺麗な手。
布団から飛び出している手は
どうも触れたくなる。
またしても
自分のわがままに逆らえなかった。
いつもの冷たい海のような
視線や態度とは異なり
手は暖かい。
「なんだね。
僕の日記を見た後は
手まで繋ごうとするのか 君は。」
どうやら 全てお見通しだったらしい。
「君のそういう積極的なところ
僕は 嫌いじゃない。」
博士には体調を崩してほしくない。
でも 限定された素直な彼を
私はいつからか 海の底よりも深い感情で
想い始めていたらしい。
1/21/2024, 3:16:55 AM