ほろ

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あれは、高一の夏の話。
夜の学校に忍び込んだ俺は、担任に見つかって何故か彼の家に呼ばれた。

一人暮らしなんだ、適当にしてて。パチリと部屋の電気を点けながら、担任は荷物をその辺に投げる。ソファーとテーブル、テレビだけの簡素な部屋。女の気配など一切ない。
「どうした?」
ボーッと突っ立っていた俺に気付いたのか、担任が顔を覗き込んでくる。人との距離感ってのを知らないらしい。鼻がくっつきそうだった。思わず離れて、聞こえなかったフリをしてソファーに座る。
担任は、俺が無視したことなど気にしていないのか、「ちょっと待ってろー」とキッチンへ行った。カタコト、何かを出したりしまったりする音が響く。いい匂いもしてきた。
「お待たせ」
「……なにそれ」
「コンソメスープ」
ベーコンとキャベツ、人参、じゃがいもがごろっと入ったコンソメスープ。いい匂いの正体はこれだったようだ。きゅう。腹が鳴る。
「腹減ってるだろ。あの時間に学校いたってことは、親は夜の仕事?」
「……昼も夜もいない」
「そっか。んじゃ、とりあえず怒られはしないな」
それ、担任の言うセリフか?
変な奴という認識と、腹減ったという生理現象が重なって、首を傾げた後コンソメスープをかきこむ。担任なんて、どうせ面倒な家庭には関わってこないと思っていたのに。
「食べ終わったら風呂入れよ。あと、明日の朝は家帰ること。学校には多少遅れてもいいから」
「……先生は」
「ん?」
「先生は、なんか他の先生と違う」
「ははっ、まあ、担任だから」
理由になってない。でも、可哀想だから、とか言われなくて良かった。ホッとしている自分がいることに気付き、どこか恥ずかしくなる。

変な担任。だけど俺はこの日から、先生の一番になりたいなんて思うようになったんだ。

3/12/2024, 12:36:32 PM