tifon

Open App

 「今月のお家賃が入ってるからしっかり届けてね」お母さんから手渡された封筒を、言われた通りしっかりと握りしめてぼくは家を出た。

 家賃だからそれなりのお金が入っているはずで、緊張する。怪しい人影がないか確認して道を横切る。友達が遊んでいる公園も急ぎ足で通り抜ける。車の往来に注意しながら大通りを渡ると、いつものポストだ。投函完了。

「ただいま!」「あら随分早かったのね、大家さんいらした?」「…?」
「あっ!!!」ポストじゃない、大通りの向こうの大家さんの家に届けなきゃいけなかったんだ!
マズイマズイマズイマズイどうしよう!もうポストの中だ泣きたい。

 何度も届けに行ったことあったのに、どうして今日に限って郵便物と勘違いしちゃったんだろう。お母さんもはっきり大家さんの家、と言ってくれたらよかったのに…安心して任せすぎだよ嫌な汗が噴き出る。

 ぼくはもう一度ポストにダッシュした。郵便局の人が回収に来るとき、事情を話してあの封筒を返してもらうためだ。間に合ってほしい。

 待っている間に不安がどんどん募ってくる。事情を話しても、本当にその封筒をぼくが投函したか疑われたら?なにか規則で、投函物を返すことはできないと言われたら?ダメかも…。

 どれくらい待ったか、遠くから見慣れた郵便局の車がとうとうやって来た。「こんにちは!」「こんにちは」大きな身体の、いつも小包を届けてくれる女の人だった。

 必死に片言の英語で(そう、ここは日本じゃないんだよ必死だよ)事情を説明するとフンフンと頷いて袋の中をかき分けている。「これかな?」
と見せられた封筒には宛名がなく裏にぼくの苗字と住所。

 何の問題もなくぼくに手渡し、肩を優しくポンポン叩いてくれた。ほぅっと身体中の力が抜ける。ありがとうありがとうと何度も言って手を振って、そのまま大家さんの家へまた走る。

 お届けもの、やっと完了!!大変だった!




「あなたに届けたい」

#317

1/30/2024, 10:51:43 AM