『もしも未来を見れるなら』
「将来の夢って、ある?」
君が頬杖をつきながら、僕に問う。
少し肌寒い店内で、ホットコーヒーに口をつける。彼女の視線は窓の外に向けられ、その先には無邪気に走り回る子どもがいた。
将来の夢、そんな質問はこれまで何回も聞かれた。幼稚園、小学校、中学、高校、そして大学。
大人はなぜか知りたがる。最初は本当になりたいものを挙げるが、次第に大人の反応を伺って、だんだんと現実味を帯びた回答になる。
僕の、幼いころの夢は恐竜になることだった。
絶滅したなんてことは知っていたが、僕は成長するうちにいつかなれると信じて疑わなかった。
幼稚園児の夢に論理的な繋がりなんてない。
小学校、中学では警察官だとか、学校の先生だとかありきたりで親や教師が満足するような将来の夢を作っていた。
実際、僕の人生を通して教師なんかになりたいと思ったことは1度たりともない。
高校になると進路のために、ある程度真剣に考え始める。好きなことや興味のあることを挙げて、それらに関わる何か、そして自身の力量を正確に見積った回答をしなければならない。
この時の僕は大学に進学することが決まっていたから、他教科と比べて僅かに得意と言えた科目を選んだだけだった。
彼女と出会ったのは大学2年の後半だった。
好きなことがあって、将来の夢がある彼女と過ごすうちに、僕は自分が空っぽだということを嫌という程に突きつけられた。
自分の道を自分で選び、作り、歩むその姿が眩しくて、憧れで、恐ろしかった。
空白な自分はいつからか、その隙間を埋めるように死にたいと願うようになっていた。
将来何がしたいかと問われても、僕には死にたいしか出てこない。
中学も高校も、ぼんやりと過ごして、進路志望に死にたいと書いては消してを2度程繰り返した。
それでも僕は君を愛していた。
だからこう答える。
「君の隣にいたい」
もしも未来を見れるなら、この嘘に君は気づいてしまうかもしれない。
それでも、君の曇りなき歩みがたどり着く先を知りたいと思ってしまうんだ。
2026.04.19
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4/19/2026, 11:19:56 AM