【渡り鳥】
「こりゃあ、この町は駄目かもしれないなぁ」
時計塔の上を見上げて男が言った。
何かあったのかと尋ねたら「渡り鳥だよ」という返事。何がどうなれば渡り鳥のせいで町が駄目になるんだ?
見れば、時計塔の上には何やら木が生えているようだ。いや……なんか、不自然だな?
「あれは? 木の根が見えているけれど」
「だから渡り鳥だって。あんた、他所から来たのかい?」
「ああ。この辺りのことはあまり知らないんだ」
「悪いことは言わないから、この町からは早く離れな」
男は「自分も避難する」と言って立ち去った。一体なんだと言うんだ。
「渡り鳥か……まさか時計塔に巣を作るとは」
別の男たちの声が聞こえた。
「早くここを出た方がいいな」
「だなぁ。いつもなら向こうの森に行くのに、今年は運が悪い」
「まあ、仕方ねぇさ。ここはそういう土地だからよ」
町の住人たちが話しているのをなんとなく聞いていると、急に大きな影が太陽を遮った。雲にしては移動が速い。なんだ……?
バサバサと羽ばたきの音がして。時計塔に止まったのは巨大な鳥。
「渡り鳥だ。逃げろ。何が落ちてくるかわからんぞ!」
は?
アレが渡り鳥?
ロック鳥の間違いではなく?
大の大人が三人は背に乗れそうな『渡り鳥』は時計塔のてっぺんに新たな木を差し込んで、盛大にその枝葉を落下させながら、巣を作っているらしかった。めきめきバキバキとすごい音がする。
大慌てで宿に戻り、荷物をまとめ、避難する住人たちと共に町を離れた。「困った時はお互い様だよ」と、農家の荷馬車に乗せてもらえたのはありがたかった。
「この辺りでは毎年こうなのか?」
「まさか。いつもはもっと人里から離れた場所に巣を作るのさ。けど、今年は時計塔が気に入ったんだろうな」
「私の気のせいでなければ、アレはロック鳥という怪鳥だと思うのだが……」
「そうなのかい? 他所でなんて呼んでるかなんて知らないよ。ここでは『渡り鳥』って言えばアレのことさ」
住人たちは親戚がいる隣町や、別の村に避難してしばらく暮らすという。『渡り鳥』の子育て中は凶暴化して危険だというのだ。
「旅人さん。この時期にこの辺りを通ったのはまずかったね。来年は気を付けなよ」
私は、来年と言わず、この付近にはもう近付かないようにしようと決めた。
5/29/2025, 11:03:39 AM