谷折ジュゴン

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創作 「星が溢れる」
谷折ジュゴン

どこかの村で、魔法つかいのたまごが分厚い本を開いた。頁はまだ真っ白。これからたくさんの呪文を覚え身につけていく上でこの本は、彼女の相棒となるものだ。
最初に書き込む呪文はもちろん、「星呼びの魔法」だ。だが、彼女がこの魔法をつかえるようになるには、何十年もかかる。最上級の魔法を最初の頁に書き込むのには、彼女なりの理由があった。

「目標を明確に、基礎を大切に」

言わば、彼女にとって「星呼びの魔法」は魔法つかいとなるための標星なのだった。


長く苦しい修行を経て、彼女は再び故郷の村へと帰って来た。丘の上にすっくと立ち、ぼろぼろになった相棒の本を開いた。天に真っ直ぐ手を掲げる。

「───────!」

澄みきった空気を、一つの星が切り裂く。
続いて、3つ、5つ、暗い空に尾をひいていく。

「できた……やっと、できた」

人々の願いを叶える魔法が、今ここに輝いた。
自らが呼び起こした流星群を彼女は感慨深く眺めていた。
(終)

3/15/2024, 11:10:52 AM