未知亜

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ㅤ一方的に愚痴みたいなことを喋ってしまい、恥ずかしくなって私は黙った。夢乃さんはしばらくお茶を啜っていたが、
「整理してたら、中学の卒業アルバムが出てきたの。ちょっと見てくれない?」
ㅤと笑う。
ㅤ『飛翔』と題されたアルバムの表紙を、並んでめくる。夢乃さんは眼鏡を取り出した。私のあげたオレンジの眼鏡ケース、使ってくれてたんだ。
ㅤ同じ制服たちのなかに、私はすぐ夢乃さんを見つけ、夢乃さんは残念そうな声を上げた。今よりずっと長い髪。だけど面影は全然変わらない。
「これくらいの頃って、自分こそが物語の主人公みたいな気持ちでいなかった?」
ㅤアルバムをめくりながら、夢乃さんはつぶやく。
「あれも出来ないこれも出来ないって、気づけばマイナスの方ばかり数えちゃうのよね。物語の先は長くて、まだまだ続くのに」
「確かに」
ㅤ体育着姿でハチマキを巻いて、クラスメイトと笑う夢乃さんと目が合った。
「その時その時を精一杯走ってきたって、信じるしかないですね」
ㅤ写真に似たあどけなさを持つ夢乃さんは、にっこりと頷いた。



『まだ続く物語』

5/31/2025, 9:31:15 AM