"夢と現実"
──〜…♪
今日一日の業務を無事終わらせ、夕飯を済ませシャワーを浴び、寝間着に着替え歯磨きを終わらせた後、少し厚着をしてフルートを持って外に出て、再び《全ての人の魂の詩》を演奏する。
前にこの曲を演奏した時のように、今日の夜空も綺麗。
けどあの時と違うのは、空気が澄んでいて月の光が柔らかな糸のように伸びていて、刺すように冷たい空気の闇を照らしている。
──〜…♪
やはり、前にこの場所で吹いた時と音が違う。
要因は空気が乾燥して澄んでいるからだろう。音がストレートに空気を震わせている。
ほんの少しの音の震えも逃さずに届きそうだ。
空気がひりついているのは、寒さと空気の乾燥、それと《緊張》もあるのかもしれない。
この場にいる人間は俺だけで、聞いているのは月と周りの植物なのに。
──〜…♪
まぁ、そんな事はどうでもいい。
いつも吹く時は一人なのだから。
自分の満足のいく演奏をするだけ。
「……ふぅ」
演奏を終え、一つ息を吐いて夜空を見上げる。頭上には曇りなき夜空が広がっていた。
──やっぱ、この曲を演奏すると、不思議と心が冷静になる。
ゆっくりと顔を戻し、正面を向く。
「……ようこそ、ベルベットルームへ」
ふいに、そんな言葉が口をついて出た。
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所」
これは、あのシリーズゲームに登場するキャラクターが発する台詞だ。
その台詞を、普段では考えられない口調で発した。
普段この喋り方は、患者達の前でしかした事がない。何故この言葉が口をついたのか、自分でも分からない。
「……っ」
だから今、物凄く恥ずかしい。
頬も耳も焼けるように熱い。
──誰かに見られる前に、早く中に戻ろう。
急いでフルートを仕舞い、ケースを持って足早に中に戻った。
12/4/2023, 12:22:03 PM