権力者の世界は、基本的に夜しかない。
月が光っている、綺麗に。
前に演奏者くんが「月に願い事をすると叶う可能性が高い」なんて言ってたっけ。
願い事か⋯⋯⋯⋯。
ボクが叶えたい、願い。
権力者であり続けたい⋯⋯⋯⋯わけじゃない。
この世界に来た迷い子を意思のない人形のようにし続けるのはいやだ。
演奏者くんがこの世界にずっといて欲しい⋯⋯⋯⋯なんて言ってはいけない。
彼の自由を奪うことをできるほど、ボクと彼は対等ではない。
演奏者くんと付き合いたい⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんて、何を考えてるんだボクは。
付き合いたいとかそういう話ができるほど対等じゃないと、何度思えば⋯⋯⋯⋯。
それでも、それでもたぶんこの恋心は消えないし、消すことを願うことすらしたくない。
だから、月に願い事をするならば。
「どうか、少しでも長く幸せな日々が続きますように」
そんな子供っぽい願いを口にして、ボクは月に背を向けた。
叶ったかどうか確認する術はない。代わりにどんな状況になっても『願い事をしなかったらもう少し短かったんだ』と思うことができる。
そんなふうに無理やり自分を誤魔化してボクは演奏者くんがいる『昼』の場所へと戻ることにした。
5/26/2024, 3:51:23 PM