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臭い…風呂に入りたての清潔な香りと田舎の小学生の放課後の様な匂いが容器の中で混ざりきらずに二人三脚の如く、私の嗅覚に目掛けて襲ってくる。
こんな匂い、子ども以外で許せるものなのだろうか?
バレンタイデーの日に彼女に呼ばれ、駅前で待っていると、急に不安になってきた。
「あぁーあ、遅刻してもいいから仕事終わりの汗を流してくるんだった」
誰に何を弁明しているわけでもなく、男はボソりと呟いた。
男は鳶職をしていて、今日、仕事終わりにメールで彼女から時間と待ち合わせの場所を突然送られてきた。
当然、2月14日に彼女からの呼び出しを断る男はいない。遅刻なんて持っての他だ!と思い。
仕事終わりの汗を汗ふきシートで乾拭きも、そこそこに待ち合わせ場所である駅前に来たのだった。
待ち合わせの時間まで、あと、5分…
その時になって、バレンタインデーという特別感が男を襲ってきた。
急いで、目の前の薬局へ入り、石鹸の香りと書いてあるボディスプレーを買って、全身に振りかけた…訳なのだが、自分の汗と相まって気持ちが悪い。
「最悪だ!」
付き合い始めて初っ端の二人の行事が、こんなんで彼女は幻滅しないだろうか?
不安が爪の間からゾワゾワと脳みそに震えを伝えてくる。待ち合わせの時間から2時間が
経とうとしていた。女性の支度っていうのは、どんな時でも遅いらしい。
早く来てくれ、彼女の笑顔で、このゾワゾワを安心させたいのだから。
近くでは、中学生くらいの女の子がさっきから行ったり来たりしている。
あの娘も彼氏を探しているのかもしれない。

8/31/2024, 8:59:51 AM