燈火

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【愛する、それ故に】


前に横になったのはいつだったっけ。
連日の残業で限界なのに、眠ろうにも目が冴える。
いっそカフェインに頼って朝まで起きていよう。
そんな気持ちで、ネットの海に飛び込んだ。

静かな現実世界と対照的に、電脳世界は賑やかだ。
僕が開いたのは、誰でもVライバーになれるアプリ。
こんな真夜中でも多くのライブ配信がされている。
その中のひとつで、運命的な出会いを果たした。

「いらっしゃーい。よければコメントしていってね」
ハツラツな印象のキャラデザにまず一目惚れ。
おっとりとした声と口調が安らぎを与える。
絵柄と人柄のちぐはぐさに興味を惹かれた。

この子の魅力はまだ知られていないようだった。
配信歴が浅いのか、視聴者は僕を含めて数人。
コメントで話しかければ必ず拾ってもらえる。
彼女は頻繁に配信し、徐々に人気を獲得していった。

視聴者が増えるにつれ、なんとなく距離が遠くなる。
ついに企業に所属することになったらしい。
配信だけで生計を立てることが目標だと言っていた。
彼女の夢が叶って嬉しいのに、素直に喜べない。

彼女の配信は、雑談からゲーム実況にシフトした。
以前と同じようにコメントを打っても反応はない。
彼女は僕の特別だけど、僕は彼女の特別じゃない。
今や大勢いるリスナーの一人に過ぎないのだから。

それでもいい。彼女が彼女らしくいてくれるなら。
だけど、どうしても許せないことができた。
男性ライバーとのコラボ。それは彼女に必要ない。
変わらないでいてくれ。コメントで不満を訴えた。


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 ────── 以下、閲覧注意 ──────
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 ───── お題とは関係ない話 ─────
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【悪夢日記】10/7


月明かりに揺れる、カナヅチを振りかぶる影。
明らかに人間の大きな影が天井に映っている。
ゾッとした。「ヒッ」慌てて口を抑えた。
悲鳴を上げたらいけない。

恐怖で固まる体をそっと動かす。
なるべく音を立てないように起き上がった。
一歩、二歩、窓の外を警戒しつつ後ずさる。
カーテンには男の動きが投影されて見えた。

スマホの緊急SOS機能がオフであることを悔やんだ。
以前、電車内で誤作動を起こして切ったのだった。
二度と不要な通報をせぬよう、オフに変えたまま。
電源ボタンを長押ししても起動するのはAIだけだ。

ドクドクと頭の奥まで鼓動が響く。
窓はまだ割れていない。男の苛立ちが見える。
背中が扉に当たった時、カタンと小さく音が鳴った
直後、見えないはずの影の口元がニィと歪む。

──目を開けてようやく、あれが夢だったと知る。
背筋の凍える感覚。荒い呼吸。汗ばんだ肌。
脳が痺れるほどの恐怖。記憶に残る不気味な笑み。
夢でよかった、と心底安堵した。

考えれば、そうだ。知らない場所だった。
今はアパートやマンションに住んでいない。
眠る頭の上は窓だけど、人の出入りはできない。
そもそも窓の外にベランダなんてない。

スマホを見ると、まだ二時間しか経っていなかった。
きっと濃すぎたコーヒーが眠りを浅くしたのだろう。
こんな悪夢で肝の冷える思いは二度としたくない。
戒めとして記録する。入眠前にコーヒーは飲むな。

10/8/2025, 7:42:13 PM