しぎい

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胎児のときの記憶がある。

父親は私のかたちがはっきりしだしたときから母親の前から姿を消した。母親もそれを追わなかった。
その母親も私の誕生を快く思っていないことは何となく分かっていた。
望まれない誕生を望む赤ん坊がどこにいる?

生まれたくないな、と思いながらも、私はこの世に生まれてきた。

母親の胎内から出て一番初め目に入ったのは、目を焼き尽くさんばかりの光だった。聞こえるのは自分の産声ばかり。周囲の大人が何かしているけど何か分からない。

私は産まれたての身体に付着した血をすすがれて、母親の手に委ねられた。この頃には目も慣れて、人の顔をなんとなく判別できる程度にはなっていた。

なんの感慨もなく私を受け取った母親は、出産直後だというのに息も切らしておらず、相変わらずうるさく産声を上げ続ける私をじっと見つめていた。異様に黒々とした瞳が赤子ながらに恐怖心を煽り、私はさらに泣いた。

すると今まで黙って私を抱いていた母親が、急に私の鼻をつまんできた。不格好な形で呼吸を遮られた赤子の肺が限界を迎えるのは早い。

苦しい。泣きたい。泣けない。ああ、こんな仕打ちをされるのも私が望まれない子供からなのか。そうなのか。

すぐさま周りの大人が母親の奇行を止めに入った。母親はすんなり私を解放したが、その直後、私はさらに火がついたように泣いた。
そんな私をもはや見下すように、母親は聖母マリアからはかけはなれた冷たい顔をして眺めていた。

「男だったら縊り殺してたわ」

4/25/2025, 8:29:22 AM