餅を焼いていたら、生徒から電話がかかってきた。
『せんせえ、あけおめー』
「なんで俺の番号知ってんだ、お前」
『連絡網で見た』
ぷっくり膨らんだ餅から、ぷすーと空気が抜ける。
連絡網か。それは盲点だった。
「……まあいいや。正月早々、何の用だ?」
『今なにしてるかなーって思って』
「餅焼いてる」
ふはっ、と電話の先で笑い声がする。
餅を皿に移したところで、今から行っていい? とのんびり問われる。今から?
「家族と過ごさなくて良いのか?」
『今年は先生と過ごす時間を増やそうと思ってるから〜』
質問に答えられていない。俺はお前の抱負を聞いてるんじゃない。
来るな、と言いながら、餅に砂糖醤油を付ける。
『えー』
母音を伸ばして、しばらく黙った後、電話が切れた。ぷつ、ツーツー。生徒の声はもう聞こえない。
真っ暗になった画面を見つめて、溜め息をつく。気まぐれな猫のような生徒だ。関わらないのが吉。
「餅食べるかー」
ソファーに座って餅を食べる準備を終えた時、インターホンが鳴った。宅配か何かを頼んでいたっけ、と首を傾げてとにかく玄関まで行く。
「はーい」
扉を開けると、そこには先程まで喋っていた生徒が立っていた。
「来るなって言われても、もう着いちゃったし」
真っ暗な画面のスマホを振って、にひ、と笑う。
コイツには関わらないのが吉。じゃあ関わったら、今年はどっちに転ぶだろうか。
「お前のそういうとこ、嫌いだよ」
外は風も吹いていて寒い。とりあえず、二人で餅でも食べながら考えることにしよう。
1/2/2024, 11:55:04 AM