「また会いましょう」
とぼとぼ歩いていると、いつのまにか目の前に焼き芋の屋台が現れた。下を向いていたから気づかなかったみたい。
「いしや〜きいもぉ〜 おいも!」
焼き芋の香ばしい香りとともに可愛い呼び込みの声がする。ん?可愛い声?
「おいもいかがですか?」
子狐が小さな手においもを抱えてこちらを見ている。
真っ黒な瞳はきらきら輝いて茶色の毛並はふかふかだ。
これはあれかな、落ち込みすぎて幻覚を見ているか、あるいは文字通り狐に化かされているのか。
だが今日は疲れすぎて深く考える力がない。それにお腹もすいた。なんでもいいからあの美味しそうなおいもが食べたい。
「ひとつくださいな」
童話の登場人物になりきって答えてみる。子狐はなんて答えるかな。お前を食べちゃうぞ!って大狐に変身するかしら。
「かしこまりました!おいもをおひとつですね」
子狐は嬉しそうに答えて、屋台に積んであるかまどみたいな箱のなかをあさり、大きな焼き芋を選んで紙袋に入れてくれた。
「おひとつ150円です!」
200円わたして小さな白い手からおつりを受け取る。この手にあう手ぶくろはちっちゃくて可愛いだろうね。
「ありがとうございました!」
子狐はぺこりとお辞儀をして、屋台の裏側に消えた。
ひとくちかじると、甘くてほくほくの美味しいおいもだった。これで150円だなんてお買い得。食べ終わったら狐になっていても後悔はない。
あっという間に食べ終わると、落ち込みはどこかに消えていた。屋台も子狐も消えていた。
これってあれかな、落ち込んでるときに出会えるやつ?
それならば、しょっちゅうは困るけど、いつかまた会いましょう。
そうつぶやいて、私はまっすぐに前を見て歩き始めた。
11/13/2023, 12:22:21 PM