Una

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_私はこの街が嫌いだ。
この街の嫌なところをあるだけ出せと言われたら、口が裂けるほど出てくる。とりあえず今日は三点ほど。

まず、相手のことを考えられていない人が多い。自分自身のことしか考えれない自己中な人が多くて、本当に救われなきゃいけない人が救われていない。この前、電車におばあちゃんが乗りこんできた。優先席は既に埋まっていて、それを見たおばあちゃんは手すりを一生懸命に掴んで電車の揺れに抗っている。優先席には妊婦さん、おばあちゃんと同い年ぐらいのおじいちゃんが二人、ヘルプマークをつけた女の子、そしてスマホをいじっている男子高校生。結局男子高校生の目的の駅に着く前に、おばあちゃんは降りていってしまった。お前元気なら退くべきだろうよ。本当自己中なやつはこの世に居ない方がいいし、この街に相応しくない。

次に、人に対しての礼儀がない。初対面なのにそこまで言う?みたいな発言をしたり、言葉遣いがなってなかったり。親の育て方が悪いようにしか感じない。去年私は高校二年生で、自慢じゃないけどバスケ部の次期部長と持て囃されていた。私は部長の先輩とも他の三年生とも仲がいいほうで、よくご飯に行ったり遊びに連れてってもらったりしていた。だけど、この年に入った一年生の中にめっちゃ先輩に馴れ馴れしい子がいて、部長とかに対しても「〇〇じゃん」とか「〇〇しようよ」みたいな感じで、先輩たちも困ってて嫌がってるのに、一年間ずっとそれで。先輩のことを尊敬していないのが丸分かりで、礼儀って知ってる?って思ったし、普通に非常識すぎるでしょ。

最後に、当たり前のことが出来ない。謝罪とか感謝を伝えることは私の中では極普通で、極当たり前のことだと思っていた。だけどこの街の人達はそうじゃなくて。人にぶつかっても謝らないし、落し物を拾ってもらってもありがとうの一言もない。増してや頭を下げるなんてこともない。中学三年生の時、同じクラスの少し派手な子のピアスを拾って、その子に届けてあげた時、何も感謝されなかった挙句、目も合わせてくれないわ、睨まれるわで本当最悪な気分になった。拾わなきゃ良かったって思わせるの上手ですねー、ってその時は頭の中で思ってすぐその場から逃げたけど。

まあこんな感じで、こういう人が多いからこの街は全然好きになれない。こんな雰囲気で世界が良くなるわけがないし、この街が良くなるわけがない。そう思いながらも、私はこの街で大学生になってしまった。早く離れておきたかったのに。そう思いながら、キャリーケースを引いて大阪行きの新幹線に乗り込んだ_


_僕はこの街が好きだ。
この街の好きなところを出るだけ挙げろと言われたら、口が裂けてしまいそうなほど沢山出てくると思う。とりあえず今日は三点に絞って説明したい。

まず一つ目は、皆が相手のことを思いやっているところ。この街の人達は相手に話しかける前に、しっかりと相手の状況とか、環境とかを観察しているなあと思う。この前友達と一緒に電車に乗っていたら、ある駅で一人の老婦人が乗り込んできた。優先席に座るのかな、と優先席を見てみると既に席は満員状態で、婦人は仕方なさそうに手すりに掴まっていた。席に座っている人の中に、見るからに元気そうな男子高校生がいるのが見えた僕は、「何で譲ってあげないんだろう。」と友達に呟いた。すると友達からあたかも当然のように「だって怪我してんだから当たり前じゃん」と返ってきて、もう一度彼を見て驚いた。ズボンで隠されていた長い足が垣間見えた時、彼の足首に包帯が巻いてあるのが見えた。彼の横には松葉杖まで置いてあった。松葉杖まであったのに、僕は見かけだけで周りも見ずに、彼が元気だって判断してしまっていたのか。僕だけが全く周りが見えていなくて、友達も婦人も周りの人も、全員が彼の状況を見ていたからこそ、誰も何も口出ししなかったんだと思うと、自分だけ彼を嫌な目でいた事が凄く恥ずかしくなった。

次に二つ目は、皆が誰に対しても尊敬を忘れていないところ。コミニュケーションをとるのがこの街の人達は得意みたいで、人が言ったことを素直に受け止めることが出来るのも、尊敬の心があるから故だと僕は思う。去年僕は高校二年生で、モテるためだけにバスケ部に入部した。僕たちの高校は男バスと女バスが同じ日に体育館を半分に分けて、部活動を行っていた。とある日に、女バスの一年生の子が、三年生の部長や、その他の先輩たちに敬語を使っていないところを見た。あれでいいのか、とモヤモヤする日々が続き、ある日部室に戻ろうと向かっていた時(男バスの部室は女バスの部室を二部屋挟んだ隣で、部室に行くには女バスの部室を通らなければいけなかった) 、女バスの三年生が集まって話をしているところに遭遇してしまった。僕が食いついたという事は、その会話の話題は勿論例の彼女で。
「あの子めっちゃタメで話してくるよね。」
「ね。うちらが言ったことすぐに受け止めてて最高。」
「やっぱ敬語より楽だよねーうちらも。」
「うんうん。次の部長あの子でもいいかもねー。」
「いやいや、あの子になったら皆仲良くなりすぎて部活にならなくなっちゃうよ笑」
最初は悪口かと思っていたが、どうやらあの一年生のタメ口は、先輩たちから直々に言われてしていたらしい。部室で着替えた後、体育館に忘れ物を取りに行って初めて知った。彼女は全員が帰った後も自主練していたのだ。先輩たちの練習している姿を撮って、その姿に近づけるかのように、スマホと睨めっこしていた。尊敬の念が無い、というよりかは尊敬の念"しか"ない。この方が最適な気がした。

最後に三つ目。当たり前のことが当たり前にできるところ。感謝とか謝罪するのって、日常的には当たり前ですることが極普通だと思うけれど、その普通が出来ない人もこの世には存在していて、その普通が出来るからこそ、この街はより良くなっていると思う。人とぶつかっても、見てない自分にも責任があるからと誰も責めない。落し物を拾ってもらっても、お互い助け合うのが当然だと思えているからお互いの声に反応できる。僕は中学三年生の時、クラスの派手な子のピアスの落し物を拾ったことがあって、その子のだって知ってたから届けたけれど、あまりいい反応じゃないのを見て迷惑なことをしてしまったと思った。が、彼女は僕の思った反応とは真反対で、「ん」と言って手を差し出してきた。でもその手は誰もいない空白の場所に差し出されていて、「僕はここだよ」と教えると、「あ、ごめん、さっきカラコン先生に取られちゃって目見えづらいの。」と彼女が早口で一言。咄嗟に見知らぬ相手に謝罪の言葉が出てくるのって凄いな、ってこの時は感心の方が勝ってしまったと思う。

こんな素敵な街で何年間も過ごせたことは、今でも僕の誇りだ。この街はこれから更に素敵で豊かな街になっていくと思う。なんてったって、この街の人達はこの三つだけじゃ語れないほどいい所がたくさんあって、思いやりで溢れている。僕は二十何年間この街に居続けて、この有難みに気づいた。会社に就職したタイミングで大阪に行った僕だけど、毎月一日は必ずこの街に戻ってくる。それぐらいこの街が大好きなんだ。今日がその大事な日。僕はキャリーケースを引いて東京行きの新幹線に乗り込んだ。

「街」

6/11/2024, 3:53:11 PM