谷間のクマ

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《春恋》

 春は別れと出逢いの季節、とはよく言うものだが、それ以外にも春は恋の季節だとあたし、中川夏実はふと思う。あたしの少し先にはほんの数日前にめでたく付き合うことになった明里と蒼戒がいるのもあるかもしれない。
「しっかしよく頑張ったよねー、ハルも。恋のキューピット、大変だったでしょ?」
 あたしはあたしの右隣を歩いているハルに言う。
「いやー、その通りだな。すげーんだよあいつら。俺が何やっても全然甘い空気になんないし波瀾万丈どころか波瀾上等だっつーの」
「波瀾上等って……」
 左隣を歩いている紅野くんが呆れた様子で呟く。
「いやジョーダンじゃねーよ? あいつら本当に波瀾しか起きねーし『波瀾上等じゃコラァッ!』って声が聞こえてきそうだし……」
 げっそりと言うハルにあたしはとりあえずお疲れ……、と言っておく。
「そういえばハルってなんでキューピットやってるんです?」
 紅野くんがふと思い出したように尋ねる。
「なんでって言われてもなぁ……、あいつらには幸せになってもらいたいから、かな」
「わー、優しい人間の鏡だー……」
「ハルってこれで案外優しいんですよね……」
「おい紅野! これで案外ってなんだよ! 案外って!」
「だって見た目サッカー部のチャラ男ですよ、ハルは」
「確かに〜」
「酷いなオメーら!」
 ケラケラ笑って紅野くんに同意するあたし。ハルは怒ってるけど、ぶっちゃけ紅野くんの言う通りだしなぁ……。
「なつー、サイトーウ、紅野くーん、そんなにゆっくり歩いてたら置いてっちゃうよー!」
 道の先で、明里があたしたちを呼ぶ。そういえば今みんなで並木の空き地でバトミントンしに行くところなんだっけ。
「あ、今行くー!」
「というかお前らが歩くの早すぎんだよ」
「ごもっともです」
「黙れ春輝。お前たちが遅いだけだ」
「なんで俺だけ……」
「じゃあ明里たちのとこまで競走ねー!」
 あたしたちは桜の花びらが舞う桜並木を笑いながら駆け出した。
(終わり)

2025.4.15《春恋》
あんまり恋物語っぽくないな……

4/16/2025, 9:55:52 AM