逆さま。そんな言葉が似合う女の子だった。
小柄な躯からは考えられない程、苛烈な性格だった。
自分が辛い時は他人に優しくする。絵に書いた主人公のようだった。
周りが言い難いことは自分から言い出し、周りが解決出来ることには手を出さない。まるで、その存在感と裏腹に、自分が居なくてもいい世界を良しとしているような、そんな態度でもあった。
普通じゃない。普通じゃない優しさを持っているからこそ、彼女が普通じゃないなにかを抱えていることは周りの皆もうっすらと理解していた。勿論、僕もだ。そしてそんな彼女に惹かれているのはやはり、僕だけでもなかった。人気者だったのだ。
棺桶に入っている彼女は、もう逆さまではない。頭も足も、どちらがどちらか分からない。分かることは、まっ逆さまに落ちたらしい、ということだけだった。
他人を助けるだけ助けて、何も求めず死んでいった。原因は家庭環境のせいらしい。でも、死なせたのは僕のせいだ。助けてもらっておいて、その恩を返そうとはしなかった。いつか、未来で返そうと思っていたから。当たり前のように彼女と一緒にいる未来を考えていたけれど、どうやらそれも彼女にとっては、僕にとっても逆さまだったみたいだった。
葬式を終えて、独りの帰り道。彼女の顔と声を思い浮かべながら、夕焼けに染められた赤い紅い、赫い道を歩いている。僕では彼女を助けられなかったのだろうかとか、そもそも助けるなんて考え方をしている時点で彼女との未来は有り得なかったのかとか、もしものことばかりを考える。
最初から最後まで逆さまだった彼女。きっと彼女にとって、生きるよりも死ぬほうが幸せだったのかもしれない。もしくは、幸せを望まないから死んだのかもしれない。
どちらかは分からないけれど願わくば、前者であってほしいなと意味も分からないことを考えながら、意味も分かりたくないことを考えながら僕は歩き続けた。
12/6/2024, 5:12:14 PM