「踊りませんか?」
犯罪者と一般人。そして二人は初対面。
面会室の窓越しに、一般人がこのような言葉を投げかけた。
一般人のほうが、一方的な面会を持ちかけたようだ。
弁護士は何をやっている、こんなよくわからない文言を言って、俺のことを弄ぶのか。
ああ、所詮は国選弁護士。必要最低限のことしかやってくれない。そんなのは当たり前か。
当然、犯罪者には手錠がかけられている。
両手を差し出すようにして、身体の手前にぶら下げている。踊りとは、身体が自由でなければそうなれない。
中世風味の物語で、砂漠のオアシスを転々とする踊り子のようにでなければならない。
「どういうことだ」
「いえ、失礼。こちらの話です」
一般人は奇妙な笑みをしながら座り続けた。
「たしかにあなたは罪を犯しました。妻を殺された腹いせに、復讐心を悪魔に売った。本人のみならず、その妻、子供、夜泣き癖のある赤子さえも手にかけ、一家を惨殺した。無期懲役は免れません」
「……」
「と、世間ではそう思っている。本当は違うのでしょう?」
一般人の正体は、早期退職した警察官だった。
どうやら彼女のことが知りたくてこちらに来たのだ。
犯罪者は無神経に黙秘する。しかし、心のうちはそうではない。つまらない現在から華やかな過去へ。
「協力してくれませんか。冤罪をなくし、真犯人を逮捕するために」
「違う、俺が全部やったんだ。リサは関係ない!」
「あなたは彼女の操り人形だ。自ら糸を切らなければ、自分の人生は取り戻すことなく、踊るように生きることができない」
「それが本望だからここにいる、ということがわからないのか」
10/5/2024, 9:54:17 AM