NoName

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離れにある、奥座敷に持ち物を置くと、輝夜は濡れ羽色の髪を撫で付けながら、僕に言った。
「あなた、名前は?」
「僕は、新城ハル」
それが、彼女の声を聞いた、二番目の再開だった。
そのとき、僕はまだ彼女の名前も知らなかった。
「私は輝夜、輝夜雪」
うわぁ。お姫様みたいな名前だなあ。
と、素直に感嘆していると、輝夜はさらに続けた。
「私のおじいちゃん、さっき会ったでしょ? 人間じゃないの。オオヤマツミ。そういう神様なの」
聞いたことがなかった。
だけど、確かに神様と言われれば、そうも受け取れるような、そんな雰囲気さえした。
角張った何百年も生きているような、岩のような気配。
「じゃあ輝夜も、神様なのか?」
そんな気もする。だって、彼女の腰まで伸びた長い髪も、告白したくなるような黒いまつ毛も、なんだか神聖な気配がただよっていたから。
「私は、半分だけ、神様の血が混じってるの」
「そうなんだ、通りでなんか……」
「なに?」
と、急接近する彼女の顔。
いい匂いがする。
ち、近くで見ると、あまりにも美しい。
それこそ、雪みたいに。
「な、なんでもない」
そう誤魔化すしか、僕には出来なかった。

7/20/2023, 10:26:28 AM