Eric

Open App

空がこんなに広かったのか。。。

平日の午前中に制服で、一人で坂を駅へと下っていく時に、振り返った、大きな空を忘れない。

あの空は。
鳥かごから出されて、その自由に戸惑った、私の心。

冷たい空気は、頬に、肺に、心地よく。
たしかに、真っ青な高い空に未来を感じたのに。
わざとらしく両手を上げて伸びをしてみても、
なぜだか、心は、空気ほどは透き通らない。

背中のリュックには、願書。
ずっと行きたかった高校。
受験勉強は充分で、9月からずっとA判定で。
きっと明るい未来が待っているのに。

高校生の私はきっと。
あの高校で、友だちも出来て。
少し大人びて。
大好きな英語を思う存分話せて。
誰かが、笑いを含んだ声で私の名を呼ぶんだ。

あそこから出られれば。
あの空間から脱出さえすれば。
卒業さえすれば。

きっと、全ては元に戻る。
楽しい日常が、また息を吹き返す。

卒業までの日を指折り数えてここまで来た。
もう2月。受験が終われば、卒業だけだ。

全てに別れを告げて。
私は未来に歩みだす。

あの空はきっと、私を祝福してくれている。
あんなに広くて、澄んでいて。

空を見上げたなんて、いつぶりなんだろう。

こんなに時間があったのか。
家や中学からたった10分のところに。
小春日和の日差しの中で。
こんなにゆったりした時間が流れていたなんて。

知っていたはずなのに。
知らなかった。
思い出す暇さえなかった。
忘れていた。


窒息しそうで、
気を抜いたら終わってしまいそうで。
歯を食いしばって、息を止めて
隙を見せずに、早足で。

きっともうすぐ終わる。
きっぱりすべてと離別して、私は、自分へと戻るんだ。
戻れるはずだ。

。。。もどれるつもりだったのに。


青くて広くて、染みるほど高い空は。
今も眩しくて、私の心には、収まりが悪い。

5/24/2023, 12:56:16 PM