アキヤ

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 ――あと3分で世界が滅ぶ。
 そう言われたならば、私はどうするべきなのだろうか。

 私には、殺したいくらいに憎い人がいる。
 でも、その人はもう時期死ぬ――地球もろとも、永遠に。
「隕石が刻刻と迫ってきます! 残り3分で、地球が崩壊しますっ!」
 テレビから聞こえた、ニュースキャスターの迫真に満ちた声色。遠くから聞こえる、絶望の叫びと泣き声。パチパチパチと、炎が何かを燃やす音。
 どうやら、この地球という星は、もうすぐ滅んでしまうらしい。
 よくもこんな時まで律儀に仕事をこなすキャスターに、ある種の日本人らしさを感じてしまう。しかし、特殊なのはキャスター側だけなようで、周囲は騒然としてテレビのそこかしこで人間の醜さをこれでもかと映し出してした。
 阿鼻叫喚という言葉は、きっとこの瞬間を表すために出来た言葉なのだろうなと、どうでもいいことが頭を過ぎる。
 私はテレビを付けっぱなしにしたまま、ゴロリとベッドに倒れ込む。あつい布団が私を包んだ。
 最期くらい、人生を振り返って反省でもしてみようか。
 思い返せば、私はとてもくだらない人生を歩んでいたものだ。
 母親は私が産まれるときに亡くなり、父親は私が6歳の時に信号無視をして轢かれそうになった私を庇い植物状態。叔母さんの家に預けられたあとは、迷惑をかけっぱなしにはいられないと高卒で就職。もちろん、まともな職には付けなかったが、しばらくの間はそれなりに充実していたはずだった。
 私の身の回りに変化か起きたのは、叔母さん達が火事で亡くなってからだ。私がガスの元栓を閉め忘れて仕事へ行ったから、火事が起きた。
「家屋が燃え上がっています!」
 ニュースキャスターの声が頭を反芻する。
 叔母さん達はきっと熱かっただろうな。熱いなか消化までの何時間もを、ずっと焼かれ続けて、きっと苦しかっただろうな。
 今なら叔母さん達の気持ちが分かる。
 きちんと、調べて学んだから。
 火事が起きたら、まず一酸化炭素中毒になるんだ。手足が痺れて、次第に動かなくなって、立つことすらままならなくなる。苦しいのに、身体を思うように動かせなくて、何もできずに横たわるだけ。
 次に熱くなる空気が喉を焼くのだ。肌もピリピリと熱に焼かれて、乾燥していく。
 次第に火が自身に迫ってきて、遂に身体へと到達する。
 ――私は私が世界で1番憎い。殺してしまいたいほどに。
 私は燃え上がるベッドの上で、朦朧とした意識のなか、何度も謝った。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 許されなくていいから、許さなくていいから、私をこの世界から連れ出して。
 人殺しと罵られる日々は、私の周囲には不幸が降りかかると言われる日々は、どうしようもなく辛かった。
 腹がたった。言われるがままの自身に。大切な人を不幸に陥れた己に。
 だから、コレはせめてもの償い。
 きっと人殺しの私には、火事のなかで焼かれる最期がちょうど良い。
 もう、終わりにしよう。

 あつい、あつい、あつい――さむいよ。
 パチパチパチと燃える音を聞きながら、身を凍えさせた私は、静かに、ぴったりと瞼を閉じた。

No.3【終わりにしよう】

7/15/2024, 1:46:54 PM