飛行機が好き。
どこまでも遠くへ飛んでいける。
僕もあんなふうになりたいな、と願う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昔から身体が悪い僕は今日も横になり、障子の隙間から天を覗く。ずっと日の下に出ることがなかった僕には眩しすぎるくらいの蒼穹が広がっていた。
僕の趣味は、稀に上空を通っていく飛行機を見届けうことだ。ほら、ちょうどやってきた、白い糸のような雲を残して。でも、正直好きだからやっているわけではない。それくらいしかやることがないからだ。
ヒュッ
部屋に何かが外から飛んできて、壁にぶつかり落ちた。
「…何これ」
呟くと、障子がスパッと開けられた。
「ただいま!今日学校で作ってきたんだ、紙飛行機。ごめんな、中に入ってしまって。」
「おかえり、兄上」
「調子はどうだ?」
喋ると咳き込んでしまいそうだったから、軽く笑って見せた。兄上は心配そうな顔をする。優しい兄がいたことは僕の力になった。
「そうだ、少しだけ起き上がれるか?よかったら紙飛行機の作り方教えるよ。」
兄上の時間をとってしまうのは良いことでは思う。でも一人でいるのは寂しい。看病に来てくれた人とはできるだけずっと一緒にいたい。
急に起き上がると流石にむせてしまった。
「大丈夫か?」
兄上が僕の背中をさする。ああ、なんて不自由な身体なんだろう。申し訳なくなってきた。
「ごめんなさい」
カフっと咳をして声を漏らした。兄上はなぜか眉を顰めこちらの横顔を包むようにがっしりと両手で掴んだ。なにこれ…。
「何言ってるんだよ!病は気から!だから気を弱く持つな。みんなを使ってやるって思え。みんなお前が可愛くてしょうがないんだ。それで何かた助けてもらったらお礼を言うようにするんだ。何故病人が謝る?息も辛く苦しいだろうに。」
兄上は強く、そして優しく言った。
「ごめんな、無理しないでゆっくり休んでいた方が楽だろう。紙飛行機はどうする?」
「兄上、本当に今日は調子が良い方なんです。紙飛行機作り方教えてください。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「できた」
兄上が一つ一つ教えてくれた方法で丁寧におった飛行機。水色の色紙でできている。それは自分がずっとみてきた空のような色でとても綺麗だった。
「色紙ここに置いておいてやるよ。暇な時はちょっとずつ作ったら楽しいだろう」
僕は空をまた見上げる。僕の作った紙飛行機は、あの飛行機のように高く、遠くまでは飛べないだろう。
「そうだ。お前が作った紙飛行機、俺が代わりに飛ばすよ。そしてどれくらい飛んだかお前に教える!」
兄上は本当に優しい。僕が外に出られないことを知っているから、室内でもできること、楽しめることを考えてくれたのだろう。なんだか目尻が熱くなった。
それから僕は熱が出ず、辛くない日は紙飛行機を折った。
兄上は飛行機を飛ばし続けた。
ー4年経った今でも。ー
今でも兄上は紙飛行機を飛ばし続けている。そんなにたくさん作ったのか?そんなことはない。僕の作ったものは大切にとってあり、飾られている。兄上は自分で形を改良して、いい記録が出るように努力している。そして記録が伸びると嬉しそうに綺麗な花と共に報告しに来てくれる。
よかった、嬉しそうな顔をしてくれている。今はもう自由だが、3年前の冬は辛かった。脈が速い割に呼吸は浅く、苦しかった。兄上と両親はずっと見守ってくれていた。泣かせてしまうのも申し訳ない。ごめんなさい…は心に留めた
「ありがとう」
兄上がずっと僕のことを忘れずにいてくれている。そして二人の思いを乗せて、僕の代わりに、僕がいけなかった遠くの空まで行かせてくれている。ずっと遠くの空へー
*・゜゚・*:.。..。.:* 遠くの空へ *:.。. .。.:*・゜゚・*
8/17/2025, 9:25:36 AM